チェックメイト
空気を読んだのか凛は不本意な空気を漂わせながらも新井さんの好意に甘えることにしたようだ。

そのつもりで来てくれたのだろうか。

なんて紳士的なんだと感心してしまう。

「先輩、あの、ありがとうございます。」

「貸しにしておこうか?」

「え!?」

信じられない発言に反射的に反応してしまった。

可笑しそうに肩を震わせる先輩を見て仕掛けられた罠だと気づく、またいつものからかいなんだ。

「~~っ先輩!」

「足取りはしっかりしてるけどかなり酔ってるだろ。顔が赤い。」

「先輩がからかうからですよ!」

「あんまりそんな状態で男に近付くなよ。すぐに持ち帰りされるぞ。」

「ご心配には及びません。そんな物好き稀ですから。」

思い切り睨みつけてやると私はまっすぐ前を向いて口を一文字にして力を入れた。

花の香りが気持ちを静めてくれるのを待つしかない、癒しを求めて鼻から息を吸ってみる。

「きれいな花だな。よく似合うよ、亜弥。」

突然耳に響いた低い声に私は勢いよく振り向いた。

「男は誰だってチャンスを狙うもんだ。こうやってな。」

「か…からかわないで下さい!」

「みろ、すぐに対処できてないだろうが。だったら隙なんか作るなよ。危なっかしい。」

「すみませんでした!!」

納得できない気持ちを混ぜ合わせて負けを認めざるをえない。

幸運なことにタクシーはすぐに捕まったのでほっとした。

とりあえず一緒に食事するきっかけは作れたし、次はなんとか一人前の女性に見られるよう、からかいがいのある後輩から脱出するきっかけを作らないと。

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