チェックメイト
「あまり力を入れると花が潰れるんじゃないか?」

「わわっ!」

緊張のあまり音を立てて抱えていたようで先輩が声かけるまで全く気が付かなかった。

「…緊張してんの?」

いつもより低い声が私を追い詰めるようで思わず体が正直に跳ねてしまった。

肯定も否定も出来ず私は固まったまま手元の花を見つめ続ける。

でもこれじゃあ意識していますと大声で言ってるようなものだ。

顔が熱い、心臓がバクバクして痛いくらい。

お願いだから早く家に着いて欲しい。

「先輩…かなりお酒飲んでますよね?」

「まあな。でも酔ってはいない。」

「…いつもと違う気がするんですけど。」

「そりゃ仕事場じゃないからな。小林だってそうだろ?」

「…そ、うですけど。」

私にそこまで多面性があったかな。

そう言われても納得できない思いから首を傾げて花を見つめる。

「何が違うと思った?」

顔を上げて先輩の方に目を向けるとバッチリ視線がぶつかった。

街のネオンが先輩を妖しげに照らしてくる。

「どういう所が気になった訳?」

言葉を奪いそうなその空気で包んでくるくせに強い光を宿した目が言葉を発せよと促してくる。

「…顔だけで笑うんじゃないんだなとか、肩を組まれても平気なんだなとか、あからさまな態度も取るんだなとか…。」

そう、会社での先輩は感情の振り幅が狭い人だった。

笑顔は見せても適度な大きさまでしか口は開けないし、いつも落ち着いた印象を与えていた。

握手以外で人と触れ合っているところは見たことがない。

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