チェックメイト
でも今日は友達と笑いあっている姿は、体も揺らして笑ったり話したり、時に肩を組まれたり小突かれたり、感情を体でも表現していて少し驚いたのだ。

これが本当の先輩の姿なんだって。

「あとは…。」

今まで私が見てきた先輩は社会人としての姿なんだって気が付いた、でもそんなのはある程度想像が出来たしすぐに納得できる事だったんだけど。

「あとは?」

「…傍にいると…危険な感じがしました。」

射貫く様な目で見られると平常心でいられなくなってしまう。

目を見たら簡単に心を持っていかれそうで怖い、魔性の空気をまとっていたから。

「危険、ね。」

恐ろしく低い声で呟かれた言葉に私は思わず顔を逸らして窓の外に逃げた。

先輩。

教育係の時もよく呆れられたり怒られたり、たまに笑顔を見せてくれたけど、こんなにいろんな顔を見せてくれたことはなかった。

後部座席で並ぶ近さはあの時の机を並べていた距離と似ている気がする。

半年以上傍にいたけど先輩に触れたことは一度もなかった。

でも、今。

「珍しいネイルをしてるな。」

私の指に触れて絡めてくる。

「こ、ここを右に曲がってください!」

焦るように運転手に告げると私はマンションの前でおろしてもらった。

「これで。」

私が財布を準備する前にカードを出して先輩が会計を済ませてしまう。

「先輩!?」

「降りるぞ。」

慌てて降りるとタクシーはそのまま発進していってしまった。

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