チェックメイト
ソファのクッション、ぬいぐるみ、柔らかいものが無くなってしまい、ちょっと躊躇ったけどティッシュ箱を振り上げた瞬間に先輩が手を挙げて声を張った。

「俺は本気だって!!」

動きを止めてしまったけど、やっぱり疑いは晴れない。

「まだ言いますか!!」

「知らないのは小林だけだろ!?少なくともじいさんにはバレてるよ!」

「は?」

とりあえずティッシュ箱はやめてくれ、そう言いながら先輩は私に近付いてゆっくりと箱を取り上げた。

「俺はずっと小林が好きだった。…嘘じゃない。同期にもバレてる。」

「え?」

「会社の外で会えるなんて思わなかったから、今日がチャンスだと思った。…だから、だな。」

私から奪ったティッシュ箱を肩に乗せるとバツが悪そうにそっぽを向いて言葉を濁す。

そして深いため息を吐くと改めて私に向き直してまっすぐ見つめてきた。

思わずファイティングポーズに近い構えをしたのには苦笑いされる。

「ちょっと興奮しすぎて暴走した、ごめん。…俺はずっと小林が好きだった。」

「ず…ずっとって…。」

「ハッキリ認識したのは2年前くらいか?俺より周りが先に気付いた感じだな。」

斜め上方向を見つめながら記憶を掘り起こしているのだろう、そしてそれは恥ずかしいものなのかもしれない。

「まず小林の教育係りをしていた時、じいさんがたまたま俺らが並んで話していたのを見かけたらしくてさ。入れ込みすぎるなって警告を受けてた。その時は親身になりすぎるなって意味だと思ってたんだけど、教育期間が終わって同僚として働きだしてからも小林と関わることが続いて。」

先輩の言葉に私の中の記憶も呼び起こされてきた。

半年の教育期間を終えて、それでも先輩は同じチームで何かとフォローに入ってくれることも多かった。

判断に迷ったとき、人知れずヒントを与えてくれたのはいつも藤原先輩だ。

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