チェックメイト
「周りが俺たちについて噂しているのを知っていたけど俺たちはそんなつもりなかったから無視してただろ。でも小林が俺じゃない奴と組んで仕事した時にな、どうしようもない苛立ちがあったんだよ。」

「先輩じゃない人って…ありましたっけ?」

「たかだか飲み会幹事の仕事だけどな。妙な違和感と苛立ちと、その時に同期から嫉妬してんのかって言われて気付いた。」

何それ、そんな事知らない。

「それからずっと、片想い。」

「し、知りませんよ。」

「まあ…言ってないからな。」

先輩はそうおどけて私の目の前に立った。

見上げないと顔が見えない位に近い距離、構えたままの手はそのまま固まっている。

「今の距離が心地いいから壊れるのが怖かった。でも正式にじいさんから時期を見据えて上がってこいって言われて…昇格試験に合格したら言おうって思ってた。小林。」

「は、はい。」

「さっきは初めて触れて…情けないことに理性を無くしてたけど、俺は一時期の感情で告げるわけじゃない。」

声に神妙さを感じて私は引き寄せられるように先輩を見上げた。

まっすぐな目、いつも見てきた決意を秘めた目だ。

「この先の人生全てを視野に入れて、俺は小林を選びたい。」

「この先…。」

「結婚を前提に、俺と付き合って欲しい。」

思ってもみない言葉に私は声も出なくなってしまった。

嬉しい、でもそれ以上に驚きが勝って瞬きを重ねるだけだった。

「真面目に仕事に取り組む姿も、失敗から逃げずに立ち向かう姿も、感情豊かに見せてくれるところも、隙だらけかと思ったらそうじゃなく自分をしっかり持っているとこらも、全部可愛いと思ったから。」

私を選んでくれた理由、それが分からなくて困惑していたら先輩は話してくれた。

その声も表情も優しくて、初めて見る甘い姿にドキドキして顔が赤くなってしまう。

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