チェックメイト
確かに披露宴の後にまた新井さんから絡まれた時も先輩が止めてくれたのだ。
場の雰囲気を壊さずに、誰も損をしないように。
「なかなか出来たイケメンだね。彼女いないの?」
「え?あー…周りの女子社員の言い方だといないと思う。次期社長さんだしハードル高いんじゃないかな。」
「次期社長って、いまは?」
「この前部長に昇格してたよ。」
そう言い放って私は口紅を塗り直した。
「なあに?ちょっと寂しそうじゃん。」
にやにやと凜がからかってくる。
「そんなことない。」
そう答えたものの、実際は凜の言うとおりだった。
先輩が部長に昇格が決まったとき周りにも明かされた真実は、彼が社長の孫で次期社長になる予定であるということ。
息子さんは別会社を経営されているんだとかで孫である先輩が継ぐことになったのだ。
聞かされたときはただただ驚いただけで、時間が経つにつれてその事実が染み込んで寂しくなった。
先輩が遠い人になってしまった気がしたから。
見た目もよくて仕事もできて人間的にも申し分はない、そんな完璧な人だけど口が悪かったり意地が悪かったりと親しみやすくて近くにいやすかったのに。
「やっぱり別世界の人間だったんだなって噛みしめただけ。」
まだ先輩が隣にいた頃は違う部署の子たちが完璧すぎて近寄れないって騒いでいても私は首を傾げていた。
教育係だったということもあったけど先輩はたくさん努力をして結果を出しているんだって傍で見てきたから親しみがわいていたんだ。
「亜弥さ、本当は先輩のこと意識してたんじゃないの?」
「…別に。」
「美月だって私たちと同じところから社長夫人になったんだよ?亜弥もそこまで畏まることないんじゃない?」
まっすぐ向けられる視線と言葉に向き合う勇気がなくて私は鏡の中の私に逃げた。
いつもより少し気合を入れたメイク、華やかな服に髪型、少しだけレベルアップしたような気になれるのは私の心が浅はかで幼いからなのかな。
美月、いつもはかわいい系のお姫様なのに今日はすごく綺麗だった。
横にいる凛だって街を歩けばよくスカウトマンに声をかけられるほどの美人さんだ。
幼馴染3人の中で一番地味な私は華やかとは無縁だと思ってた。
「今日の美月からパワーもらってさ、頑張ってみなよ亜弥。」
凛の言葉に心が揺れて思わず横に目を向けてしまう。
待ってましたと言わんばかりに凛は微笑んで自分も口紅を塗りなおした。
今の私なら少しの背伸びで届くのかな、でも頑張るって何をがんばったらいいんだろう。
少し意識をしていただけで好きなのかも分からないのに動くべきなのかな。
「なんか気乗りしない。」
「そう?その程度なの?じゃあ今後も付き合いがあるようにしておくだけでもいいんじゃない?」
「今後?」
まさかの前向き発言に瞬きを重ねた。
てっきりそれでも行けと言われるかと思って構えたのに。
「社長のプライベートを知ってるなんて、ちょっといい気分になれるでしょ。」
「あはは!何それ。」
「もしかしたら潤くん繋がりで何かあるかもしれないしさ。まあ無いとは思うけど。」
「そうね、無いとは思うけど。」
妙な縁で繋がった関係も悪くないのかもしれない。
そんな僅かな前向きを武器に私たちは二次会の会場に向かった。
場の雰囲気を壊さずに、誰も損をしないように。
「なかなか出来たイケメンだね。彼女いないの?」
「え?あー…周りの女子社員の言い方だといないと思う。次期社長さんだしハードル高いんじゃないかな。」
「次期社長って、いまは?」
「この前部長に昇格してたよ。」
そう言い放って私は口紅を塗り直した。
「なあに?ちょっと寂しそうじゃん。」
にやにやと凜がからかってくる。
「そんなことない。」
そう答えたものの、実際は凜の言うとおりだった。
先輩が部長に昇格が決まったとき周りにも明かされた真実は、彼が社長の孫で次期社長になる予定であるということ。
息子さんは別会社を経営されているんだとかで孫である先輩が継ぐことになったのだ。
聞かされたときはただただ驚いただけで、時間が経つにつれてその事実が染み込んで寂しくなった。
先輩が遠い人になってしまった気がしたから。
見た目もよくて仕事もできて人間的にも申し分はない、そんな完璧な人だけど口が悪かったり意地が悪かったりと親しみやすくて近くにいやすかったのに。
「やっぱり別世界の人間だったんだなって噛みしめただけ。」
まだ先輩が隣にいた頃は違う部署の子たちが完璧すぎて近寄れないって騒いでいても私は首を傾げていた。
教育係だったということもあったけど先輩はたくさん努力をして結果を出しているんだって傍で見てきたから親しみがわいていたんだ。
「亜弥さ、本当は先輩のこと意識してたんじゃないの?」
「…別に。」
「美月だって私たちと同じところから社長夫人になったんだよ?亜弥もそこまで畏まることないんじゃない?」
まっすぐ向けられる視線と言葉に向き合う勇気がなくて私は鏡の中の私に逃げた。
いつもより少し気合を入れたメイク、華やかな服に髪型、少しだけレベルアップしたような気になれるのは私の心が浅はかで幼いからなのかな。
美月、いつもはかわいい系のお姫様なのに今日はすごく綺麗だった。
横にいる凛だって街を歩けばよくスカウトマンに声をかけられるほどの美人さんだ。
幼馴染3人の中で一番地味な私は華やかとは無縁だと思ってた。
「今日の美月からパワーもらってさ、頑張ってみなよ亜弥。」
凛の言葉に心が揺れて思わず横に目を向けてしまう。
待ってましたと言わんばかりに凛は微笑んで自分も口紅を塗りなおした。
今の私なら少しの背伸びで届くのかな、でも頑張るって何をがんばったらいいんだろう。
少し意識をしていただけで好きなのかも分からないのに動くべきなのかな。
「なんか気乗りしない。」
「そう?その程度なの?じゃあ今後も付き合いがあるようにしておくだけでもいいんじゃない?」
「今後?」
まさかの前向き発言に瞬きを重ねた。
てっきりそれでも行けと言われるかと思って構えたのに。
「社長のプライベートを知ってるなんて、ちょっといい気分になれるでしょ。」
「あはは!何それ。」
「もしかしたら潤くん繋がりで何かあるかもしれないしさ。まあ無いとは思うけど。」
「そうね、無いとは思うけど。」
妙な縁で繋がった関係も悪くないのかもしれない。
そんな僅かな前向きを武器に私たちは二次会の会場に向かった。