俺はお前がいいんだよ

「……だからっ。好きですってば」

「もう一回」

「桶川さんが好きです。一緒にご飯食べるの楽しいし、仕事教えてくれるのも嬉しかったし、何よりはっきり言えば見た目が好みです……っ」


言葉と一緒に、唇が掬い取られる。頬を押さえていた彼の手は、いつの間にか頭を押さえて私を上に向かせている。右手は反射的に抵抗しようとした私の左手をしっかり押さえていて、身動きもできないまま、私は彼の甘がみや舌の動きに翻弄されてしまった。


「ん……あ」

「すげぇ、色っぽい声も出るんじゃん」

「そりゃ……って、あー!」


ここは会社だったー!
テンパりすぎていて忘れていた。

勢いよく彼を突き飛ばし、辺りを確認する。
会議室だから誰も見てない……わけでもない。入口がうっすら空いていて、人影が見えるよ。


「何見てんですかぁ!」

「ごめんごめんー」


声からして、あれは亀田さんだな。でも、ガタガタと逃げる音からして、一人ではない。少なくとも三人は覗いていたっぽい。


「亀田だな、あの野郎」

「いや、でも待ってください。責められるべきは、会社でこんなことをしている私たちでは?」

「もう定時過ぎてるぞ、覗きのほうが有罪だ」

「いやいや、待ってください。そもそもこの場所の公共性を考えるとですね」

「お前、どっちの味方なんだよ」


あ、しまった。
桶川さんを拗ねらせてしまった。


「ああもう、面倒くせぇ!」


桶川さんは私をひょいと持ち上げ、子供を抱くように抱き上げた。
そして会議室の扉を力いっぱい開く。


「というわけで。高井戸は俺のだからな。お前ら、手を出すなよ!」


なんという宣言をするのだ。

この人も、実はやっぱりストーカーっぽいところあるんじゃない?
やっぱり私、男運悪い?

でも、森上さんの時と全然違うのは、そんな独占欲いっぱいの発言が嬉しいってこと。

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