俺はお前がいいんだよ
「うるさい、桶川。従業員の私物化はいい加減にしろ」
会議室隣の社長室から、社長が出てきて、大きなファイルで桶川さんの頭をぶん殴った。
「いてぇな」
「お前があまりにも大人げないからだろうが。高井戸さんが可哀想じゃん。ねぇ」
優しいイケメンスマイルに、「社長ー」と泣きついてみたら、桶川さんがますます腹を立ててしまう。
「お前、俺が好きだっていったろうが」
「社長は正統派のイケメンだから仕方ないんですよ」
「この面食い女!」
「面食いで悪かったですね」
「お前ら、喧嘩するだけならもう帰れ!」
最終的に怒り出した社長に追い出されて。私たちは会社を出たのだった。
「……車」
「え?」
「乗っていけ」
「でもこの時間だったら電車のほうが……」
「早くても車に乗れ。……またあの変態野郎が出たら困るからな。つか、お前のアパート大丈夫なの? あいつに知られてるんだろ、どうせ」
たしかに、そこは不安ではある。
でもすぐに引っ越しできるわけでもないしな。
「とにかく戸締りはしっかり気を付けます」
「俺んちくる?」
甘いマスクでそう言われて、私は反射的に「いいえ」と返した。
一気にムッとする桶川さん。
だってさぁ。今日は色々ありすぎて疲れたんだよ。
桶川さんと一緒に居たら、ドキドキし過ぎて休憩できないじゃん。