俺はお前がいいんだよ

「なんでだよ、普通そこ、喜ぶところだろ?」

「嫌ですよ。部屋なんか行ったら何されるか分からないじゃないですか」

「お前俺のこと好きって言ったじゃないかよ。別に手ぇ出したっていいだろ」

「やですー。そんなムードもなくいきなりとか最悪です。こっちは桶川さんみたいに経験豊富じゃないんですからね。グイグイ来られると困るんです。じわりじわりと進展したいんですよ」


こんな会話をすることにもびっくりだよ。
私、まともに男の人と付き合うのって五年ぶりなんだから、ほとんどセカンドバージンだっていうのに。
いきなり相手がこんなハイスペック野郎とか、どうしたらいいのか分からなくて本当に困ります。


「あっそ」

「はい」

「まあだからって俺が言うこと聞く筋合いはねぇよ」

「ぎゃあっ」


ひょい、とまた持ち上げられ、地下の駐車場まで連行される。


「桶川さん、これ、拉致って言いますよ」

「うるせぇな。お前がガタガタ注文が多いのが悪いんだろうが」

「だってー」

「つまりまだ手を出さなきゃいいんだろ。とにかく、あんな男に付きまとわれてると分かったら放っておけねぇの。俺んち、部屋余ってるからそこで寝ろ。ベッドはないけどソファならあるし」

「何でひとり暮らしで部屋が余るんですか」

「ひとりだからだろ? 2LDKでちょうど余るじゃん」

「ひとりで2LDKになんて住みませんよ、何その成金!」

「あーもう、うるせぇ!」


結局、私は高級そうな会社の助手席に押し込まれ、彼の部屋に連行されることとなった。
< 38 / 59 >

この作品をシェア

pagetop