俺はお前がいいんだよ
「なんでだよ、普通そこ、喜ぶところだろ?」
「嫌ですよ。部屋なんか行ったら何されるか分からないじゃないですか」
「お前俺のこと好きって言ったじゃないかよ。別に手ぇ出したっていいだろ」
「やですー。そんなムードもなくいきなりとか最悪です。こっちは桶川さんみたいに経験豊富じゃないんですからね。グイグイ来られると困るんです。じわりじわりと進展したいんですよ」
こんな会話をすることにもびっくりだよ。
私、まともに男の人と付き合うのって五年ぶりなんだから、ほとんどセカンドバージンだっていうのに。
いきなり相手がこんなハイスペック野郎とか、どうしたらいいのか分からなくて本当に困ります。
「あっそ」
「はい」
「まあだからって俺が言うこと聞く筋合いはねぇよ」
「ぎゃあっ」
ひょい、とまた持ち上げられ、地下の駐車場まで連行される。
「桶川さん、これ、拉致って言いますよ」
「うるせぇな。お前がガタガタ注文が多いのが悪いんだろうが」
「だってー」
「つまりまだ手を出さなきゃいいんだろ。とにかく、あんな男に付きまとわれてると分かったら放っておけねぇの。俺んち、部屋余ってるからそこで寝ろ。ベッドはないけどソファならあるし」
「何でひとり暮らしで部屋が余るんですか」
「ひとりだからだろ? 2LDKでちょうど余るじゃん」
「ひとりで2LDKになんて住みませんよ、何その成金!」
「あーもう、うるせぇ!」
結局、私は高級そうな会社の助手席に押し込まれ、彼の部屋に連行されることとなった。