俺はお前がいいんだよ
目覚めると、視界にあるのはごつごつとした鎖骨。
クッションの柔らかい寝心地のいいベッドの中で、私は丸くなって寝ている。
そんな私を守るように伸ばされている固い腕は首の下と腰に回されていた。
目の前に横たわるイケメンは桶川恭平さん、二十九歳。
背が高くていかにももてそうな俺様電脳野郎なのに、なぜだか彼は私のことが気に入ったらしい。
ストーカーまがいの前の会社の同僚から守ってくれて、ここに住め、と自分の家に連れて来てくれた。
そんな突然の同居生活(同棲ではない)が始まって一週間。
ソファで寝ていたはずの私は、朝にはいつも、桶川さんのベッドに連れていかれて抱き枕よろしく抱きしめられている状態で目が覚める。
寝間着には一切乱れたところはなく、体がだるいわけでも痛いわけでもない。
ただただ守られて眠るのは心地のよいものなんだと、私はここにきて初めて知った。
まるで甘い毒みたい。
もっと欲しいと思うけれど、手に入れるのは不安すぎる。
こんな風に甘やかされて、慣れてしまうのが怖い。
今までの人生を思い返せば、いいことは長く続かない。私の場合は、いいことの後にやってくる悪いことのほうがずっと長かった。目の前の彼に手を伸ばしたいと思うと同時に、手に入れてしまったら失ってしまう恐怖に囚われて、いつも胸に飛び込むのには躊躇してしまう。
私の腰を押さえていた手が外されて、整った顔を隠すように手のひらで目をこする。
「……んー。起きたのか。おはよ。……なんだよ、朝からそんな顔して」
「そんな顔とは」
「いやなんか、怒ってるじゃん」