曖昧ストラテジー【短編】
先生が、板書を始める。


ルーズリーフを取り出して、シャーペンを握る、と、肘が何かとぶつかった。


すぐに、それが江口の肘だとわかる。


「ごめん」


慌てて左手を下げる。


江口は右利き。俺は左利き。


これは、困った。


「う、ううん、大丈夫」


眉を下げて、江口が答える。


そんな表情でさえ、僕を惹きつけているなんて、きっと、江口は、知らない。


とん、とん、と、ノートを取るたびに触れる。


そのたびに、心臓がドキドキする。


顔、真っ赤だろうな、隠したいな、でも、左手でシャーペン持ってるから隠せない。
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