曖昧ストラテジー【短編】
けれど、それが飯島には不思議だったようで。


「俺、なんか変なことした?」


高くもなく、低くもなく。


心にすっと入ってくるような、どこか甘い声。


授業中だから声量を抑えて、コテンと首を傾げて。


ふわり、と猫っ毛が舞う。


「ごめん、なんでもないよ」


ヘラリと笑って、右手、腕時計が付いている方を伸ばした。


シャラリ。


また音を立てる。


ねぇ、気づいた?


普段はベーシックな黒の腕時計。


だけど今日は、朝の占いでゴールドの腕時計がいいって、そうすればいいことがあるかもって、美人なアナウンサーが読み上げていたから。


そんな占いを信じて、ガラにもない華奢な時計をつけてきてしまうくらい。


飯島が好き、なんだよ。
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