曖昧ストラテジー【短編】
そんな事を口に出して言えるわけもなく。


なんとなく、伝わればいいなって飯島の目を見つめた。


彼の目線は、消しゴムから腕時計へ。


それから、私の目に。


目が合った瞬間、ふわっと心が浮いて、幸せになって、だから私は、ニッコリ笑って。


「消しゴム、ありがとう」


もう一度、腕時計をシャラリ。


ちょっとでも、可愛く見えたらいいな。


意識してくれたら、いいな。


そんな願いを込めて、消しゴムを握りしめて。


それから、そっと視線を逸らして前を向いた。


ドキドキ、ふわふわ。


君にもそれが、伝染しますように。


5時限目、科学。


腕時計が、シャラリ。
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