曖昧ストラテジー【短編】
それから、そういえばと思った事を口にしてみる。


「もうあの金色の時計つけないの?」


今右手にあるのは、黒のシンプルな時計。


それもそれで江口らしいけれど、あの金色の時計は、江口の魅力をさらに引き出していた、ように思う。


「あ、あれは、占いでゴールドの腕時計をつけたらいい事があるって言ってたから……!」


なぜか照れたように弁解する江口に、笑みが浮かぶ。


「へぇ、可愛いね」


素直に言ってみると、江口は林檎のように赤くなった。


「意味わかんないっ………‼
授業中にそんなこと言わないで!」


ふいっと顔を逸らされたけれど、その仕草すらかわいく見える。


心臓の高鳴りを隠すために、ゆるゆると弧を描く口元を必死に隠す。
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