貪欲ジェラシー
気がつかないうちに、後ろにいた高浜(たかはま)くんに思わず肩を揺らしてしまう。
ふわりと香るシトラスの香りは、廉のにおいとは全然違う。
口元を横にきゅっと引いたような笑い方も、廉とはまったく違っている。
優しいところなんて…廉とはまったく違う。
あたしの理想って、高浜君みたいな人だったのにどうして廉のことを好きになったんだろう…。
「長谷部!大丈夫かよ…?」
「あ…ごめん……」
なんでだろう。どうして…こんなにも好きなんだろう。
ねえ廉、気がつくって何?ちゃんと教えてくれなきゃ分かんないよ……。
「長谷部。資料室に企画のファイルあるから取りに行こう?」
声をかけられる相手も、やっぱり廉じゃなきゃ苦しくなるだなんて……きっとあたしって廉に依存してるんだね。
深く深くため息をついて、教室から出るように促す高浜君に静かについていくあたしがいたんだ。
話さないって言われた、たったそれだけで…それを思い出しただけで、鼻の奥がツンとなる。
心臓がギュッと締め付けられたみたいに、息ができなくなる。
苦しくて苦しくて、顔をあげてないと涙が出てきそうになる。
話さないなんて…言わないでよ、廉。
「ひゃ……っ」
トンッとあたしの前を歩いていた高浜君の背中に、勢いよく突っ込んでしまった。
「長谷部、大丈夫か?熱あるとか?」
すっと前髪を避けて額に触れた高浜君の手に、驚いてしまう。
「えっと…あのっ……」
「ないみたいだね。今日はなるべく早く帰れるように、仕事はやく終わらそう」