「先輩、甘えるってなんですか?」
鳳駕の腕が私の頭に回ってきて、ぎゅっと鳳駕の制服に押し付けられた。




「沙代が悩んでることくらい知ってるんだよ。毎晩毎晩、バルコニーにいることも。親の話するとスカートを強く握りしめることも。だから、・・・・・俺の前で我慢すんなって言ってんだろ?」





鳳駕の声がすぐ側から聞こえる。





私は・・・・・・・・・そっと鳳駕の背中に手を回した。





あったかかった。





「お前はいっつも我慢ばっかりだから、俺の前では甘えればいいのに。めんどくさい性格だよな。なのに、人一倍人の変化には気づいて。人のことばっかりで自分のことを心配しねーし。」





褒め言葉?悪口?





よく分からないけど、私は涙を頑張って引っ込めた。




ぎゅっと、ぎゅっと、鳳駕の制服を握って。





鳳駕は何も言わなかった。




お陰で、涙はもう出ない。




「・・・・・・・・人の体温ってあったかいね。」





ふと、私の喉から出た言葉。





今の率直な言葉。





鳳駕はふっと笑って、「そうだろ?」って言った。





それ以上何も言わないでくれた。




そっと私のことを離すと、じっと私の顔を除きこむ。




ちょっとだけ、悲しい顔をした。




「・・・・・いつになったら泣くんだよ。」





ぼそっと言った鳳駕の言葉に私は気づかなかった。




「しゃねーから、また同じことになったら抱きしめてあげるよ?沙代ちゃん。」



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