ヒグラシ
自覚
私の実家のある末広町は、昔から祭りに参加していない町内だ。
小学生になったばかりの頃、すぐ隣の横町は参加していて自分の町内が不参加なのが理不尽だと、何度も駄々をこねたことがある。子どもらしいとはいえ、改めて思い出すと恥ずかしい過去だ。
そんな私のわがままを見かねた親が、ある日横町の町内会館へお囃子の練習を見せに連れて行ってくれた。
そこで幼い私が目にしたのは、大人も子どもも真剣にお囃子を演奏する姿だった。額に汗を光らせて、同じ曲を繰り返し練習している。太鼓のどん、どん、という大きな音がお腹の奥へ響いてきて、むずがゆく変な気分になった。
先ほどまでの私は大声でわめいて親を困らせていたというのに、連れて来てくれた父親の手をぎゅっと握ったままただ立ち尽くしていた。鬼気迫るようなお囃子の練習風景を見て怖くなったのだ。
『樹、その子の相手してやれ』
休憩時間に町内会の人の指示で私の目の前にやってきたのが、樹だった。私と同い年だというのに、もう既に祭り囃子の練習に参加していると聞いて驚いたし感心した。
樹は私の前までやって来ると、じっと顔を見て言った。
『名前は?』
『……カナ』
『ふうん。俺はイツキ』
イツキ。私は忘れないよう心の中で繰り返した。外でよく遊ぶのか、健康的に日に焼けている。