ヒグラシ
『ついに今年は笛で参加できるんだ! 佳奈、見に来てよ』
中学に入り、いよいよその時がやってきた。樹が笛の奏者として祭りに参加することになったのだ。幼なじみの長年の夢が叶ったことが、とても誇らしく思えた。
〝当日は晴れますように〟
友達と一緒ではない、ひとりで帰る日限定でこっそり神社にお参りしていたことも、今では懐かしい思い出だ。
そんな私の願いが通じたのか、はたまた樹が晴れ男だったのかは分からないが、当日は気持ちの良い快晴だった。雲ひとつ無い空は夜まで続き、月夜を背景に提灯が煌々と街を照らしている。
はやる気持ちを抑えて横町の祭り屋台へ駆けつけると、舞台の上で横笛を吹く樹を見つけた。他の奏者と並んで、タイミングが乱れないように視線を送り合っている。
初めて見たその姿に、私は声も出せずに固まってしまった。
ーー白地に波模様の浴衣に身を包み、袖を捲り上げて一心不乱に笛を吹く樹は、本当に格好良かったから。
『佳奈さあ、ポカーンと口開けてこっち見てんだもん。笑いを堪えるのに必死だったよ』
後日、可笑しそうに言う樹に驚いた。あんなに見物客がいる中で、私の姿は思いっきり見られていたらしい。
『なに? 俺、そんなに格好良かった?』
『……』
『お、おい、何か言えよ。俺がスベったみたいで恥ずかしいだろ』
何も言い返せなかったのは、その時、樹を好きになっていたことを自覚してしまったからだ。