ヒグラシ

大通りに出ると、歩道には見物客が集まっていた。至る所を通行止めにした街なかを祭り屋台がゆったりと練り歩く非日常的な様子は、厳かで美しく感じられる。

インターネットが普及したこの時代は写真や動画が世界中に拡散されているようで、観光客が昔と比べものにならないほど増えていることに驚いてしまった。初めて訪れた人の邪魔をしないよう、私は隅の方に寄ってその時をじっと待った。

目の前に遠くから観に来たであろう親子が立っている。まだ小さい男の子がはしゃいでいる様を眺めて、私は束の間微笑ましい気持ちになった。

(どうかこの祭りが、あの子にとって素敵な思い出になりますようにーー)


そうして幾つかの町内の祭り屋台が通り過ぎ、ついに横町の屋台が見えてきた。迫力のあるお囃子と共に、かけ声が大きくなる。間髪入れずに打ち鳴らされる太鼓の音と振動がお腹の奥にずしんと響くと、私は踏ん張る足に力を入れた。


(懐かしい、この緊張感)


以前は毎年来ていた祭りも、7年振りなのだ。この祭りに携わっている人は毎年のことだが、私は違う。手のひらに尋常ではない汗をかきながら、静かに深呼吸を繰り返した。

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