ヒグラシ

『……明日も祭り、続くからさ。佳奈の家に空き瓶回収しに行けるの、明後日になりそう』

「え、あ、そうなんだ」


一瞬何のことかと思ったが、昨日のお酒の話だ。突然仕事モードで話しかけられ、尋ねるタイミングを完全に失ってしまった。


『明後日、夕方には行けると思うから。ーー家にいろよ』

「えっ?! な、何でよ」

『ーー樹い! お前もこっち来て飲めよ!』


その時、遠くから樹を呼ぶ声が響いた。どうやら祭りが終わった後の宴会の席だったようで、樹が通話口から顔を放してゴソゴソ話している。


『ごめん、そろそろ切るわ』


町内会長あたりから声をかけられたのか、樹は焦ったように少し早口になっている。私は余計なことは聞かず、素直に電話を切ることに協力した。


「うん……あんまり飲み過ぎないようにね」

『ん、じゃあな』


後に残るのは、ツーツーという無機質な機械音のみ。私はそっと通話ボタンを押して、思わず子機ごとベッドに飛び込んでいた。

あの時目が合ったのは、決して気のせいではなかったことが嬉しくてーー思春期のやり直しか、とひとり突っ込みを入れると、笑いがこみ上げてきて止まらなかった。

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