ヒグラシ
「はああ、何だよそれ。こっちは勇気を出して連絡したってのに」
「そんなこと言われたって」
「佳奈だって、俺に一切連絡寄越さなかっただろ」
樹の態度はもはや完全に八つ当たりだ。そのままキッと睨まれる。少しだけ、目の周りが赤いけれど。
「私、樹に嫌われたと思ってたから」
「何で」
「私は何も変わらなかったのに、樹がどんどん大人になっていくことが怖くて。このままだと置いて行かれるって思ったの! ……でも結局、逃げたみたいになっちゃった」
一気にまくし立ててから、余計なことを言い過ぎたと後悔した。自分勝手な理由に幻滅されただろうか。
おそるおそる樹の様子をうかがうと、目も合わせずにふいっとそっぽを向かれてしまった。
「……嫌いになってたら、毎年観客の中を探したりしないから。一昨日佳奈と目が合ったとき、めちゃくちゃ嬉しかった」
「毎年……?」
もしかして、定位置ではなく柵に座って演奏していたのも観客を見渡すためかもしれない。そう思い至った途端、私の顔に熱が集まっていく。
「もしかしたら今年こそ見に来てるかもって繰り返して……7年だぞ?! 長かったんだからな」
念を押すように言った樹は、先ほどより顔を赤く染めて破顔した。
「ーーそれじゃあ、そろそろ大事なことをはっきりさせるか」
樹の言葉に、私は小さく頷いた。