ヒグラシ

「……」

「……佳奈?」

「わ、私も……樹が好き。でも」

「でも?」

「……正直に言うと、樹と同じ方向を向いて、歩いて行けるかすごく不安なの。将来のこととか考えると……」


ここでの〝好き〟は、子どもの頃のように気軽に言えるものではない。前とは違い、将来を見据えたうえで責任をもって結論を出さないといけないからだ。樹がこれまでこなしてきたことと、これから背負っていくであろう未来を考えると、自分が邪魔をしてしまいそうで怖い。

樹は私の様子を見て、そっか、と呟いた。


「さすがにもう諦める。そろそろ結婚相手見つけろって、親にせっつかれてるし」

「え! 樹、結婚するの?!」


弾かれたように顔を上げて樹を見ると、肩をすくめて見せた。


「最近見合いしろってうるさくて」

「……そうなんだ」


〝結婚〟の二文字に衝撃を受けた。樹が結婚するのは嫌だ。でも、もうどうしようもない。私は心の痛みをごまかすため、俯いたままブランコの鎖をぎゅっと握りしめた。


ーー〝心が痛い〟だなんて自分勝手で虫の良い話だ。そもそも、樹は既に結婚して家庭をもっていてもおかしくなかったというのに。


隣のブランコがガタンと音を立てて数秒後、温かい大きな手が、鎖を握った私の手をそっと包み込んだ。

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