ヒグラシ
追想
夕飯まで時間があったので、気晴らしに近所を散歩することにした。定年間近の父親が帰宅したら、久々に一緒にお酒が飲めるかもしれないと浮き足立つ。
お気に入りのガウチョパンツに、風通しの良いTシャツ。化粧も日焼け止め程度の適当さだ。会社の人に見られたら全速力で逃げたくなるような格好も、生まれ育った地元なら全く気にならないのは、果たして良いことなのだろうか。
「うー、やっぱり寒い。もう秋みたい」
結局、雨は降っていなかった。
「最近はこんなものよ」と母は笑っていたが、そうだっただろうか。今朝、今住んでいる所のアパートを出たときは、あまりの暑さと日差しにくらくらしたというのに。地元とこんなにも気候が違うとは思わなかった。
月末とは言え、まだ8月だ。
子どもの頃は、寒いだなんて感じていただろうか。思い出そうと眉間に皺を寄せていると、追い討ちをかけるように風が吹いて、ぶるりと身震いがやってきた。
我慢できずに持ってきたカーディガンを羽織ると、私はそのまま車道を逸れて小道に入る。
(変わってないな、この道)
左側が小さな森で、右側が田んぼ。
狭い道のため滅多に車は入ってこない、小中学校へと続く通学路だ。私の卒業した小学校と中学校は場所が近かったため、9年も同じ道を通ったことになる。