HARUKA~愛~
玄希くんはたまに、彼のお母さんと一緒に母の病室に顔を見せるようになった。

お見舞いに来てくれる度に美味しそうな旬のフルーツを置いていってくれた。


メロン、スイカ、梨、柿、ぶどう、桃…。


りんごになる頃には母はもう口から食べ物を食べるという当たり前のことさえ出来なくなっていた。


「お父さん、今日はりんごもらったよ」


バスの運転手である父もこの頃になると隣県の日帰りバスツアーの仕事しか受けなくなっていた。

父がいることに多少の違和感と高揚感、そしてなんとも言え無い淋しさが私の心の中でグチャグチャに入り混じっていた。


「晴香、今年のクリスマスケーキはどうする?」

「うーん…いらない。お母さんの病気が治ったら食べる」

「そっか…そうだな。そうしような」


父は自分に言い聞かせていたのだろう。


妻は治る。

治ったら、家族3人でケーキを食べるんだ、と。
 

その願いが決して叶わないと知りながら、幼い娘に悟られないように笑っていた。
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