HARUKA~愛~
「晴香…」

「お母さん、大丈夫?」


母は人工呼吸器を外していた。

私に声が聞こえるように、私に声をちゃんと届けるために、外したのかもしれない。

私は母に抱きついた。

母のお腹はぽかぽかと暖かくて、ずっと母のお腹に頭をうずめていたいと思った。


「 私が赤ちゃんだった時はこのお腹の中にいたんだね 」

「そうよ。晴香は…キックばっかりしていたから…男の子かと…思った…わ」


母は口元を緩めてはにかんだ。

私も母の真似をして笑った。


「晴香…お母さんの子供に産まれて来てくれて…ありがとう」

「お母さん…、お母さん…!」


私は息の根が止まりかける母を必死に揺すった。


「晴香…お母さんはね…お空に帰るの」

「お母さん、何言ってるの?私…分からないよ!」

「今を精一杯生きるのよ。
――――――晴香…愛してる」











 

母は目を閉じた。



冷たくなっていく母の右手を握り締めた。


風邪を引いて寝込んだ時、私が左利きだから、母は右手で私の左手を握ってくれていた。


今度は私が母の手を握る番だった。














午前11時25分57秒。

母は空へと旅立った。
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