HARUKA~愛~
8月に突入してバイトのシフトが増えた。


世の子供達が夏休みということもあり、私の働くレストランは良くも悪くも大繁盛している。

洗っても洗っても皿は無くならず、いつの間にか山積みになっているのだ。

私はパートのおばさんに囲まれながら必死に皿洗いをこなした。




あの日もらったハンカチで手をふき、ハンドクリームで保湿すると私は大急ぎで着替え、裏口から店を出た。



今日は引越の日なのだ。

さすがに私1人であの家に住むのもお金がもったいないから、私はワンルームの木造アパートに引っ越すことになったのだ。


父は一緒に暮らさないかと誘ってくれたけれど何の迷いも無く断った。

父が新しく築く家庭に私はいらないだろうし、仮について行ったとしても私の居場所などないだろう。
そう思ったんだ。



夕日はなんとかまだ沈まずにこちらに顔をのぞかせている。


駅までの長く緩い下り坂をいつもよりスピードを上げて下って行く。


蝉がミンミンと騒がしく鳴いている。


ふと地面に目をやると、そんな蝉の抜け殻を発見した。
古典によく出てくる空蝉だ。


短い生涯を全うした蝉は陽炎の中、その身を焦がす。


ゆらゆらとアスファルトが動いているように見える。




ああ…喉、乾いた。




右足がよろめく。

左足で支えようとするものの踏ん張りがきかない。














バタンッ―――――













炎天下に私の身は投げ込まれた。
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