HARUKA~愛~
「マスター、何でここに?」
「わしはたまたま今日が1ヶ月に1回の定期検診でここに来てたんじゃ。そうしたら救急車で女子高生が運ばれたって医者たちが騒ぎ出してのお。ちょうど診察室にいたわしの耳に晴香ちゃんの名前が聞こえてきてなぁ。その子を知っとると言ったらここに連れて来てもらえたんじゃよ」
「そうだったんですか…。ご心配おかけして申し訳ございません」
私が頭を下げて最大限に詫びた。
マスターは、懐かしい優しくて温かな笑顔を投げかけてくれた。
「晴香ちゃんが店を辞めてから、日向、寂しそうでのぉ。わしもちょくちょく店に顔を出しているんじゃが、日向のやつ、いっつもつまらなさそうにしてるんじゃ。コーヒーの評判も落ちて、今、客足が遠のいているんじゃよ」
マスターが真剣な目で真っ直ぐ私の瞳を見つめてきた。
私の記憶の中にある、どのマスターにも一致しない。
私は息を呑んだ。
「晴香ちゃん」
「はい…」
私がか細い声で返事をすると、マスターが皺の深く刻み込まれた大きな手のひらを私の肩に乗せた。
その手の重みが意味しているものはなんとなく分かる。
私には今すぐにでもしなければならないことがある。
マスターは頷いた。
「あの…私…」
「晴香ちゃんを必要としてくれる人はちゃんといる。わしも日向も、晴香ちゃんが大好きじゃ」
私はもう我慢できなかった。
右目から熱い雫がひとつ落ち、それをきっかけに、まるで糸がプツンと切れたように次々と感情が涙となって現れた。
必要としてくれてる…
こんな私のことが大好きだと言ってくれてる…
言葉とは、音になると更に重みが増し、メッセージ性が強くなるものだ。
私は、音となり、自分の耳に届いた言葉を何度も頭の中で反芻した。
忘れたくない、忘れちゃいけない言葉だと思ったから。
「マスター…、私………帰りたいです、マスターのところに…」
「もちろん、いつでも帰っておいで。晴香ちゃんの帰りをわしらはずっと待ってる」
―――――私は、誤解していた。
日向さんは私を必要としてくれてないからあんなこと言ったのだと思ってた。
でもそれは間違いで、本当に私のことを思い、私にムリさせないよう気遣って言ってくれていたんだ。
傲慢だったのは、私の方だ。
必要としてくれている人を自ら切り捨てたんだ。
だから今度は…繋ぎたい。
切ってしまった大切な糸をほどけないように結びなおしたい。
出来るだろうか?
―――いや、出来る。
私には見守ってくれている人達がいるから。
絶対、大丈夫だ。
私が心の中で誓いをした、その時だった。
「晴香ちゃん」
マスターがいつものように名前を呼んだ。
「はい」
「見つけてあげておくれ」
「えっ…?」
私は、急にマスターが外国語を喋っているような錯覚を起こした。
意味が理解出来なかった。
マスターは、にこりと歯を見せて笑いかける。
「晴香ちゃんの1番近くにいて1番遠くにいる1番大切な人をちゃんと見つけるんじゃよ」
1番近くにいて1番遠くにいる1番大切な人…
マスターの言っていることは、なんとなく分かるようで、やっぱり分からなかった。
でも、私は…見つけたい。
私をずっと見てくれている人を探し出したい。
どこにいるのか、誰なのか、今は全く分からないけど、糸を辿って行ったらきっと会える。
そう、信じたい。
そう、信じるよ。
午後5時36分51秒。
記憶の中のきみに会いたい。
「わしはたまたま今日が1ヶ月に1回の定期検診でここに来てたんじゃ。そうしたら救急車で女子高生が運ばれたって医者たちが騒ぎ出してのお。ちょうど診察室にいたわしの耳に晴香ちゃんの名前が聞こえてきてなぁ。その子を知っとると言ったらここに連れて来てもらえたんじゃよ」
「そうだったんですか…。ご心配おかけして申し訳ございません」
私が頭を下げて最大限に詫びた。
マスターは、懐かしい優しくて温かな笑顔を投げかけてくれた。
「晴香ちゃんが店を辞めてから、日向、寂しそうでのぉ。わしもちょくちょく店に顔を出しているんじゃが、日向のやつ、いっつもつまらなさそうにしてるんじゃ。コーヒーの評判も落ちて、今、客足が遠のいているんじゃよ」
マスターが真剣な目で真っ直ぐ私の瞳を見つめてきた。
私の記憶の中にある、どのマスターにも一致しない。
私は息を呑んだ。
「晴香ちゃん」
「はい…」
私がか細い声で返事をすると、マスターが皺の深く刻み込まれた大きな手のひらを私の肩に乗せた。
その手の重みが意味しているものはなんとなく分かる。
私には今すぐにでもしなければならないことがある。
マスターは頷いた。
「あの…私…」
「晴香ちゃんを必要としてくれる人はちゃんといる。わしも日向も、晴香ちゃんが大好きじゃ」
私はもう我慢できなかった。
右目から熱い雫がひとつ落ち、それをきっかけに、まるで糸がプツンと切れたように次々と感情が涙となって現れた。
必要としてくれてる…
こんな私のことが大好きだと言ってくれてる…
言葉とは、音になると更に重みが増し、メッセージ性が強くなるものだ。
私は、音となり、自分の耳に届いた言葉を何度も頭の中で反芻した。
忘れたくない、忘れちゃいけない言葉だと思ったから。
「マスター…、私………帰りたいです、マスターのところに…」
「もちろん、いつでも帰っておいで。晴香ちゃんの帰りをわしらはずっと待ってる」
―――――私は、誤解していた。
日向さんは私を必要としてくれてないからあんなこと言ったのだと思ってた。
でもそれは間違いで、本当に私のことを思い、私にムリさせないよう気遣って言ってくれていたんだ。
傲慢だったのは、私の方だ。
必要としてくれている人を自ら切り捨てたんだ。
だから今度は…繋ぎたい。
切ってしまった大切な糸をほどけないように結びなおしたい。
出来るだろうか?
―――いや、出来る。
私には見守ってくれている人達がいるから。
絶対、大丈夫だ。
私が心の中で誓いをした、その時だった。
「晴香ちゃん」
マスターがいつものように名前を呼んだ。
「はい」
「見つけてあげておくれ」
「えっ…?」
私は、急にマスターが外国語を喋っているような錯覚を起こした。
意味が理解出来なかった。
マスターは、にこりと歯を見せて笑いかける。
「晴香ちゃんの1番近くにいて1番遠くにいる1番大切な人をちゃんと見つけるんじゃよ」
1番近くにいて1番遠くにいる1番大切な人…
マスターの言っていることは、なんとなく分かるようで、やっぱり分からなかった。
でも、私は…見つけたい。
私をずっと見てくれている人を探し出したい。
どこにいるのか、誰なのか、今は全く分からないけど、糸を辿って行ったらきっと会える。
そう、信じたい。
そう、信じるよ。
午後5時36分51秒。
記憶の中のきみに会いたい。