HARUKA~愛~
色んなことがあってせわしく動いているうちに、いつの間にか今年も花火大会の日がやって来た。

遥奏と2人きりで行こうと約束していたが、遥奏は高熱を出して寝込んでしまって行けなくなり、私は1人、今年買ったばかりの浴衣を着て河川敷を右へ左へうろうろしているしかなかった。

3年連続で来ているのに毎年シチュエーションが違うのは、在る意味すごい。

まさか今年はばっちりおしゃれして空回りし、孤独の花火大会になるなんて思ってもいなかった。










ヒューーーーーー…ドドン!!










花火の大きな振動が体中に響く。

まるで怪獣の足音が間近に聞こえるみたいだった。









ヒューーーーーーーーーーーー…ドン!










しゃく玉が夜空に大輪の花を咲かせる。

しかし、生憎空にはどんよりと分厚い灰色の雲がかかっていて、せっかくの花火がぼんやりとしか見えない。

両目をこじ開け、前のめりになりながら花火の行方を見ていたが、私の目にはどうもがいても鮮明に映らなかった。



がっくりと肩を落としながら、音の鳴る反対方向に進んで行った。

すれ違うカップルを見る度、胸の奥がチクリと痛んだ。

右隣にいるはずの人はいくら上を見上げても笑顔をくれないし、優しく手を握ってもくれない。

感傷的な気分に押し潰されてはならないと自分を奮い立たせ、私はそのエネルギーをとある小動物にぶつけてやろうと思った。

去年と同じ、頭を気にしてハンチング帽を深く被ったおじさんの店に足を踏み入れた。


「へい、いらっしゃい!お姉さん1人?」


「 わざわざ聞くな 」と言ってやりたかったけど、今日の私はおしとやかな日本女性の典型。

ここで堪忍袋の緒を切ってもいられないのだ。

深呼吸をし、乱れた精神を統一して、目の前のやつらと対峙した。


今年こそは絶対、採ってやる!


気合いを入れてポイを水面につけた。

黒い出目金を追う。

お尻をぷりぷりと憎たらしく動かして私を誘惑してくる。

まんまと引っかかりはしない。

やつの動きが鈍くなった時こそが、その時なのだ。  

周りの凡人、いや凡金魚?を優雅に交わして他を一切惹きつけない独特のオーラを存分にだしながら悠々と泳いで行く。

そしてついに運命のコーナーにさしかかる。

やつはお尻をぷりぷりさせて若干方向転換にてこずって…




今!!









カタン――







勢い良すぎた…。



穴の空いた無惨な姿のポイが砂利の上で泣いていた。


「お姉さん、残念だったね~。まあ、浴衣姿が可愛いから一匹あげるよ」


結局、今年もまた凡金魚を連れて帰るしかなくなってしまったのだった。
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