HARUKA~愛~
「いやあ、仕事の後のスイーツは格別だね~」

「でしょぉ?ここのスイーツはどれも美味しいんだよ。自由が丘に本店があって2号店がここなんだぁ。ショッピングモールの広報担当が粘りに粘って出店に漕ぎ着けたんだから」

「ヘ~、おもしれえな」


スイーツ男子かどうか片方は分からないけど、かなり盛り上がっている。

私はダージリンティーを口に含み、話を出来るだけ耳に入れないようにしながら、その香りや味わいを楽しんでいた。

うるさい2人の話はまともに聞いていると疲れる。

本当は今すぐにでも立ち去りたい。


私が1人そっぽを向いていると、甘い匂いが近づいて来た。

 
「お待たせしました。ふわふわパンケーキラズベリーソースがけ、生クリーム多目のお客様」

「はぁい」


ヤツが手を挙げ、店員さんが眉をしかめた。
さぞかし変なヤツだなと思っただろう。

当の本人はそんなことは気にせず、さっそくラズベリーソースをもりもりの生クリームの頂上から回しかけた。

そしてナイフとフォークを上手に使い、慣れた手付きでパンケーキを切り分ける。

口を最大限に開けて一気にぱくり。

生クリーム、パンケーキ、ラズベリーの三重奏で口の中は見事なハーモニーが鳴り響いているだろう。


ヤツは満足そうな笑顔をわざわざ私に見せつけて来た。

私は完全スルー。

私は紅茶を楽しみたいんだ。
あんたより大人なの。


「アオハルもなんか頼めよー。ここの超美味いぜ!」


宙太くんの口の周りにはチョコレートソースがたっぷりついていた。

見かねた私はナプキンを1枚取り、彼に渡した。


「サンキュ、アオハル!」


チョコレートパフェの底はまだまだ見えない。
何せ彼が頼んだのは、チョコ味のコーンフレークにチョコレートケーキ、チョコアイスにチョコマカロン、マシュマロにチョコソースという、まさにチョコだらけの、総重量1キロ、高さ25センチの巨大パフェだから。

宙太くんは前々から思っていたが、かなり重度の偏食。

それが良いとなるとそれしか見えなくなる。

そういえば、今現在、彼のブームはカカオポリフェノール。
美容にも健康にも良いとテレビでやっていたのを真に受けて休み時間もカカオ90パーセント配合のチョコを食べている。

こういった点でもこの2人は似ている。

少しずつ違うけれど、雰囲気とか思考とかがほぼ同じ。
私には同じ波動が感じられた。


「はるちゃん、はぁい」


口をあんぐりと開け2人の食べる姿をマジマジと見ていた私に悲劇が起こった。


「ふふぉふぉふぉふぉ?!」

「はははは!はるちゃんおもしろぉい」


人にパンケーキをあんなに突っ込んでおいてよくもこんなに笑えるもんだ。

一体どんな神経しているんだ、コイツは?


ヤツの右の男は、口に鼻にチョコをつけながら腹を抱えて大笑いしていた。


なんとか食道にパンケーキを送り込むと私は勢い良く席を立った。


こんなヤツらと食事していたらゆっくり出来ない。

早く帰りたい。

カフェに来るならやっぱり遥奏と一緒が良い。


「はるちゃん待って!!」


ヤツはいつも追いかけて来る。

それはもうわかりきっていること。

だから腕は組んで走る。

すれ違うおばさんに白い目で見られているのも分かる。


けれど、私は変えなかった。

変えたら100パーセント、掴まれるから。







いや、でも…

私の考えは甘かった。



ヤツの奥の手にまんまと引っかかった。













ヤツは割と足が速い。

しかも力も強い。












私の鎖骨は溶けてしまいそうだった。

骨の髄までヤツの温度が伝わって来た。













なぜ











 

なぜ












なぜヤツは…













私を離さないのだろう?
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