HARUKA~愛~
「アイツさぁ、超無愛想じゃね?なんだっけ、名前…」

「石澤玄希、だろ?」

「あんなんだから野球部レギュラーなれねえんじゃねえの?なんつうか…覇気がねえよな」

「まあ、色々あるんだろうけど…」


遥奏と宙太くんは帰り道もヤツの話をしていた。

宙太くんは自分と異質の人間を目の当たりにして相当ショックを受けたらしい。
自分の恋のライバルがヤツであることも判明した今、彼の心は複雑な思いでいっぱいで、押しつぶされそうになっているに違いない。


「ああ、でも、あの子はかわいかった!新妻さん、だっけ?」

「宙太って、ホント見た目重視だよな」


その通りだよ、遥奏。

とは口が裂けても言えない。

宙太くんをこれ以上刺激してはならないのだ。

勘ぐられないように細心の注意を払って彼らとは接しなければならないと私は思った。


「そういやさ、石澤と新妻さんってアオハルと1年ん時同じクラスだったって聞いたけど、仲良かったのか?」

「いや、特に…」

「だよな。アオハルと一緒に居る感じしねえもん」


宙太くん、大はずれだね。

私はあの人達のせいで苦しんだんだよ。

関係、大有りだから。


心の中に小さな渦が巻いた。


私を見かねて、遥奏がバスケ部のことに話題をすり替えてくれた。

遥奏の優しさに今日もまた助けられた。








ありがとう。













夕日が殆ど地平線に沈み、辺りの電灯がつき始めた。


白いワゴン車がスピードを上げて坂道を登って行く。


ふと空を見上げると、星の代わりに桜の花びらがひとひら降って来て、私の頬についた。

人差し指と親指で摘まんで瞳の前に持って来てみる。

きれいなハート型かと思ったが、まん中に少し切れ目が入っていた。

瞬時に不吉な予感を感じ取った私は吐息でそれを吹き飛ばした。

ひらひらと舞って無機質なコンクリートの上に着地する。


「ハル、何やってんの?電車、乗り遅れるよ」


遥奏に名前を呼ばれ、私は急いで駆け出した。













春は私に試練を与えた。

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