HARUKA~愛~
なぜこのタイミングで現れたの?





ヤツはやっぱり笑ってこちらを見つめていた。


「はるちゃん、おつかれぇ。疲れたでしょぉ?…はい、チョコあ~げる」


ヤツはいきなり近づいて来て、無理やり私の口に白い欠片を押し込んだ。

攻撃を仕掛けたかったけど、疲労困憊でそんな力も湧いて来なかった。

じんわりと口の中に広がる甘さに心を預けた。


ホワイトチョコ…。


小さい頃は、ブラックより、ミルクより、生チョコより、クーベルチュールより、この甘くて白い板チョコが好きだった。

1枚まるごと食べて気持ち悪くなり、トイレに何時間もこもって吐いてしまったこともある。

そのくらい好きだったのに、最近は食い溜めのおかげで食べたくなくなった。

久しぶりの、懐かしい味に涙腺が緩んだ。


「やだ…私…。なんで泣いてるんだろ…」


ジャージのポケットに突っ込んであった、しわくちゃになったティッシュで必死に鼻をかむ。

でも…止まらない。

鼻水も涙もこらえきれない。

熱い涙は頬を伝い、ホコリで覆われた階段に落ちて行った。


「はるちゃん、はい」


ヤツがハンカチを差し出した。

この前とは一味違った星が描かれていて、G.Sと刺繍が入っていた。

どこか違和感を感じたが、涙をこらえることに集中していたからそれどころではなかった。


「はるちゃん、意外と泣き虫さんだねぇ」

「…うるさい」

「そして、強がり」

「うるさい。違うから」

「そしてそして…」


ヤツは初めて前から私を抱きしめた。

離れようと両手を動かそうとすると、最大限の力で押さえつけられた。

ヤツの体温、鼓動が私の身体の一部になる。


「はるちゃんは…不器用で真っ直ぐ」
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