HARUKA~愛~
「はるちゃん、どお?おれの自信作」
「どうって…」
「すごくない?頑張って1ヶ月以上試行錯誤して作ったんだよぉ」
「別に。所詮ペットボトルロケットだし。小学生でもできるじゃん」
口ではそう言ったものの本当はすごいと思っていた。
嘘偽り、お世辞なく、感動して、悔しいけど鳥肌が立った。
あんなにきれいに真っ直ぐ打上がって空中分解する様を見せられたら、素直な人はきっと拍手喝采だ。
私は素直じゃない。
ヤツはわかりやすく肩を落とし、しょぼくれながら、屋上の隅でバラバラになったロケットを必死にかき集めていた。
そんな様子を見ていたら、なんだかヤツが惨めに思えて来た。
たまには、ちゃんと誉めてあげようか…。
日頃ヤツに対して発動しない良心が覚醒し、私を突き動かす。
自らヤツに近づいて行く。
いつか感じた、あの吸い寄せられるような感覚…。
ヤツが宇宙の中心にいて、私が重力で引きつけられているみたいだった。
「はるちゃん、ありがとぉ、手伝ってくれて」
「別に…、別に感動しなかったわけじゃないから。すごいなって、1ミリは思ったから」
「またまたぁ。本当はすごいすごぉいって思ったくせにぃ。はるちゃん、ひねくれ過ぎ。ストレートに言わないと、はるちゃんの本当の気持ち、誰にも伝わらないし、誰も気づいてくれないよぉ」
コイツは変化球を知らない。
毎回ドストレートを投げてくる。
そして、いつも私は受け止めきれない。
ポロッとグローブから抜け落ちてしまう。
いや、自分がわざとキャッチできないようにしているのかもしれない。
そうして自分が傷付くのを未然に防いでいるんだ。
でも…このままで良いのだろうか。
良いわけないよね…。
分かってる。
分かってるけど、分からない。
私が視線を移すと、ヤツは私の目を真っ直ぐ見つめていた。
その純粋な黒い瞳に吸い込まれそうだった。
「はるちゃん、この世には一体いくつ星があると思う?」
「えっ…、急に聞かれても分かんない」
「なんとなくで良いから答えて」
私は雑学を知らない。
そういう類の番組は全く見ない。
知識をひけらかす人が嫌いだったから。
雑学を小馬鹿にしていたバチが当たる時が来てしまったようだ。
「じゃあ…100万」
「はるちゃん残念。正解は…なんとぉ…2000億個!!」
拍子抜けした。
2000億とは、日常のあらゆる事象と桁が違い過ぎる。
この空、この宇宙に星が2000億個…。
気の遠くなる数字。
何気に見ていた夜空が、急激に遠ざかったように感じた。
「でねぇ、望遠鏡とかで観察できるのは約1000億個で、そのうち肉眼で見えるのは8600個って言われてる。でもでも、条件が良くないと見られないから、おれたちが実際に見られるのは、さらにその半分らしいよぉ」
「そうなんだ…」
「そう思うと、この夜空に見えない星を探したいと思わない?」
私は小首を傾げた。
見えない星を見ようと思ったことなど1度も無い。
第一、ここに広がっている夜空が俗世の言う夜空で、それ以上でもそれ以下でも無いと思う。
今見ているこれが夜空だから、見えない星があろうとなかろうと、私は探すとかそういう考えには至らない。
なんて、そんな冷めた考え、ヤツには言わなかったけれど。
男の子のロマンを崩すほど、私の心はまだ淀んでない。
「はるちゃんは見つけてほしくないのぉ?」
「えっ…?」
「もし自分が星で、そんなに光れなくて、人間の目に届かないとしたら、そんな自分こそ見てほしいって思わない?」
「それは…」
思う。
すごく思う。
すごくすごく思う。
だけど、私は…どうせ見つけてもらえない。
そう分かっているから、見つけてだなんて、そんな大それたこと言えない。
言いたくても、言えない。
「理由は言えないんだけど…」
ヤツの歯切れが悪くなる。
沈黙が2人を包む。
聞こえてくるのは風の音とあの坂を散歩中の犬の鳴き声。
いくつかの教室から人工的な光が漏れていた。
「星を見つけたいんだ。誰も見つけたことの無い星を…」
初めて聞いたヤツの夢…。
ヤツは続ける。
「おれは、どんな星でも生きている限り、誰かにとっては大切な星だと思ってるんだぁ。例え微量の光でも、輝こうと必死にもがいているのなら、おれは見つけてあげたい。そして、名前を付けてあげたい。その星には、誰かの生きる証になってほしいんだぁ。名前は自分自身の一部だからねぇ。…だから、おれは」
ヤツは憎たらしいまん丸のほっぺにくっきりとえくぼを作った。
いつかどこかで見た、柔らかな優しい笑顔…。
私が探しているものに似ていた。
「ずっとずっとずーっと、おれの星を見守るよ。星が蒸発して消えてなくなるまで、ずっと、ずっと…」
胸がぎゅうっと締め付けられた。
手のひらに電流が走り、感覚が無くなる。
プラスチックの破片を掴んだ私の左手にヤツの右手が重なる。
ヤツはまた笑っていた。
「いつか、はるちゃんが許してくれたら、はるちゃんを宇宙に連れて行ってあげる。おれは…一緒に星を見たい」
午後6時46分38秒。
限りなく続く宇宙の中、大切なものはすぐ近くにあるのかもしれない。
「どうって…」
「すごくない?頑張って1ヶ月以上試行錯誤して作ったんだよぉ」
「別に。所詮ペットボトルロケットだし。小学生でもできるじゃん」
口ではそう言ったものの本当はすごいと思っていた。
嘘偽り、お世辞なく、感動して、悔しいけど鳥肌が立った。
あんなにきれいに真っ直ぐ打上がって空中分解する様を見せられたら、素直な人はきっと拍手喝采だ。
私は素直じゃない。
ヤツはわかりやすく肩を落とし、しょぼくれながら、屋上の隅でバラバラになったロケットを必死にかき集めていた。
そんな様子を見ていたら、なんだかヤツが惨めに思えて来た。
たまには、ちゃんと誉めてあげようか…。
日頃ヤツに対して発動しない良心が覚醒し、私を突き動かす。
自らヤツに近づいて行く。
いつか感じた、あの吸い寄せられるような感覚…。
ヤツが宇宙の中心にいて、私が重力で引きつけられているみたいだった。
「はるちゃん、ありがとぉ、手伝ってくれて」
「別に…、別に感動しなかったわけじゃないから。すごいなって、1ミリは思ったから」
「またまたぁ。本当はすごいすごぉいって思ったくせにぃ。はるちゃん、ひねくれ過ぎ。ストレートに言わないと、はるちゃんの本当の気持ち、誰にも伝わらないし、誰も気づいてくれないよぉ」
コイツは変化球を知らない。
毎回ドストレートを投げてくる。
そして、いつも私は受け止めきれない。
ポロッとグローブから抜け落ちてしまう。
いや、自分がわざとキャッチできないようにしているのかもしれない。
そうして自分が傷付くのを未然に防いでいるんだ。
でも…このままで良いのだろうか。
良いわけないよね…。
分かってる。
分かってるけど、分からない。
私が視線を移すと、ヤツは私の目を真っ直ぐ見つめていた。
その純粋な黒い瞳に吸い込まれそうだった。
「はるちゃん、この世には一体いくつ星があると思う?」
「えっ…、急に聞かれても分かんない」
「なんとなくで良いから答えて」
私は雑学を知らない。
そういう類の番組は全く見ない。
知識をひけらかす人が嫌いだったから。
雑学を小馬鹿にしていたバチが当たる時が来てしまったようだ。
「じゃあ…100万」
「はるちゃん残念。正解は…なんとぉ…2000億個!!」
拍子抜けした。
2000億とは、日常のあらゆる事象と桁が違い過ぎる。
この空、この宇宙に星が2000億個…。
気の遠くなる数字。
何気に見ていた夜空が、急激に遠ざかったように感じた。
「でねぇ、望遠鏡とかで観察できるのは約1000億個で、そのうち肉眼で見えるのは8600個って言われてる。でもでも、条件が良くないと見られないから、おれたちが実際に見られるのは、さらにその半分らしいよぉ」
「そうなんだ…」
「そう思うと、この夜空に見えない星を探したいと思わない?」
私は小首を傾げた。
見えない星を見ようと思ったことなど1度も無い。
第一、ここに広がっている夜空が俗世の言う夜空で、それ以上でもそれ以下でも無いと思う。
今見ているこれが夜空だから、見えない星があろうとなかろうと、私は探すとかそういう考えには至らない。
なんて、そんな冷めた考え、ヤツには言わなかったけれど。
男の子のロマンを崩すほど、私の心はまだ淀んでない。
「はるちゃんは見つけてほしくないのぉ?」
「えっ…?」
「もし自分が星で、そんなに光れなくて、人間の目に届かないとしたら、そんな自分こそ見てほしいって思わない?」
「それは…」
思う。
すごく思う。
すごくすごく思う。
だけど、私は…どうせ見つけてもらえない。
そう分かっているから、見つけてだなんて、そんな大それたこと言えない。
言いたくても、言えない。
「理由は言えないんだけど…」
ヤツの歯切れが悪くなる。
沈黙が2人を包む。
聞こえてくるのは風の音とあの坂を散歩中の犬の鳴き声。
いくつかの教室から人工的な光が漏れていた。
「星を見つけたいんだ。誰も見つけたことの無い星を…」
初めて聞いたヤツの夢…。
ヤツは続ける。
「おれは、どんな星でも生きている限り、誰かにとっては大切な星だと思ってるんだぁ。例え微量の光でも、輝こうと必死にもがいているのなら、おれは見つけてあげたい。そして、名前を付けてあげたい。その星には、誰かの生きる証になってほしいんだぁ。名前は自分自身の一部だからねぇ。…だから、おれは」
ヤツは憎たらしいまん丸のほっぺにくっきりとえくぼを作った。
いつかどこかで見た、柔らかな優しい笑顔…。
私が探しているものに似ていた。
「ずっとずっとずーっと、おれの星を見守るよ。星が蒸発して消えてなくなるまで、ずっと、ずっと…」
胸がぎゅうっと締め付けられた。
手のひらに電流が走り、感覚が無くなる。
プラスチックの破片を掴んだ私の左手にヤツの右手が重なる。
ヤツはまた笑っていた。
「いつか、はるちゃんが許してくれたら、はるちゃんを宇宙に連れて行ってあげる。おれは…一緒に星を見たい」
午後6時46分38秒。
限りなく続く宇宙の中、大切なものはすぐ近くにあるのかもしれない。