HARUKA~愛~
図書館からの帰り道。

初めて宙太くんと2人で歩いた。

たいていは、私と遥奏、宙太くんの3人で帰っている。

ハルカップルなんて言っておきながら、宙太くんは私達の邪魔ばかりしてくる。

それが遥奏を取られたヤキモチだってことももちろん知っている。

だから私は遥奏と2人きりではなく、トライアングルという形で同じ時を過ごして来たのだ。


宙太くんは、今日は無口。

やっぱり遥奏がいないと調子が上がらないみたい。

私には遥奏の代わりは務められない。

唯一無二の存在に代替品は無いのだ。



冬の夜空は一段と美しい。

星がどの季節よりも鮮明に見える。

月も雲間から青白い顔を覗かせていた。



「あのさ、アオハル」


宙太くんが真剣な声音で私に話しかけて来た。

聞いたことの無いトーンに、私の心はゆっくりと凍りついて行った。


「今日って何の日だか、分かる?」

「宙太くん、私のこと馬鹿にしてるでしょ?」

「いや、そんなこと、断じて無い!」

「私がクリスマスもわからないとでも思ったの?!」


私が激しく攻撃すると、今度は宙太くんの顔が凍りついたみたいに一瞬動きが止まった。


おかしい。
いつもの宙太くんじゃない。


私は違和感の正体を見つけ出すべく、宙太くんに話しかけようとした、まさにその時。




ブー、ブー、ブー…




宙太くんは慌ててスマホをカバンから取り出し、耳に当てた。


「はいもしもし。…はいそうですけど…。はい………、はい……分かりました。すぐ行きます。
…はい、…はい失礼します」


宙太くんは普段血色が良い。

代謝が良いらしく、いつも顔は健康的な色だ。


でも今日は、とことん違う。

長内宙太じゃなくて他の人かと本気で疑いたくなった。


長内宙太の分身は私に言った。


「俺、急用ができたから先帰るわ。じゃあな!」


彼の声は震えていた。

まるで誰かに不幸が起きたかのような感じだった。


もしそうだとしたら、一体誰なのだろう。

知ったこっちゃないけど、でもなんかいやな予感がする。



もしかして、私の知っている人…?



追いかけようとした時には、宙太くんの背中はもうみえなかった。




吐く息が真っ白だ。

時々、舞い降りる粉雪と混ざり合う。

見えていたはずの月は、恥ずかしかったのか、雲に隠れてしまった。


頬に打ちつけられた風は、骨の髄まで凍らせた。
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