HARUKA~愛~
「これが破れたら終わりね。晴香ちゃん、ズルしないでね」

「わかってます!!」


私が何度も迷惑をかけた新米ナースが金魚すくいの担当だった。

私への名指しの忠告にいらっとしたが、集中しなければ、狙う獲物は採れない。

私は普段の勉強の時以上に集中した。

深呼吸をしてポイを水に入れる。

黒い出目金を追った。

お尻をぷりぷりさせて優雅に泳ぐ姿には他を惹きつけない独特の魅力を感じた。

私は一気に仕掛けた。





しかし、無惨にもポイはド真ん中に大きな穴が開いた。


ガックリと肩を落とす私の横では、玄希くんがまだ金魚と格闘していた。


「玄希くん、採れた?」

「まだ3匹」 

「えっ…」


確かに彼の器の中には鮮やかなオレンジ色の凡金魚が3匹入っていた。

欲張りだった私は、玄希くんに自分の野望を叶えてもらおうと、あの出目金を指差して言った。


「私、あれが欲しい」

「うーん、難しそうだねぇ」

「難しくても採って!絶対だからね」

「わかってる。晴香との約束は絶対だから」


玄希くんは再び金魚と対峙した。

あの出目金は相変わらず水中を悠々と泳いでいる。

出目金が金魚気の無いコーナーにさしかかる。



玄希くんの表情が変わった。


かと思ったら、そのまま勢い良くポイを水面で滑らせ、尾から乗せて器の中に入れた。



私は一瞬何が起こったのか分からなかった。

唖然と水面を見つめていると玄希くんに肩を叩かれた。


「晴香、約束、守ったよ」


私は玄希くんに飛びつきたくなる衝動を押さえつけ、かわりにとびきりの笑顔を作った。


「ありがとう、玄希くん!」


出目金と凡金魚に分けてもらい、私はちゃっかり出目金の方をゲットしたのだった。
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