HARUKA~愛~
「晴香、早く火点けて」

「ちょっと待って。私…火、恐いの」

幼稚園生の時、私は親子遠足で牧場に行った。

うさぎにエサをあげたり、ポニーに乗ったりして最高に気持ちよかったのだが、最後にやられた。

バーベキューをする予定だったのだが、その日はかなり風が強かった。

それが不幸を招いた。

牧場の係りの人が薪に火を点けてくれた、その直後。

手を温めようと近寄って行ったら暴風が吹いてきて、私の目の前に炎が迫ってきたのだ。

びっくりして尻餅をつくと、周りの男子に笑われた。

こっちは何も悪くないのに、自分だけ怖くて恥ずかしい思いをすることになって、その後私は手のひらを返したように黙り込んだのだった。



玄希くんにその話をすると私の線香花火の先に火を点けてくれた。


「はい、晴香。離しちゃダメだよ」

「分かった。がんばる」


がんばると言ってしまった以上、後には引けず、だいぶ距離をとって線香花火を見つめていた。

徐々に先が膨らみ、パチパチと音を立て始める。


「晴香、大丈夫だよ」


音がする度に小刻みに震える私を玄希くんが優しく宥めてくれた。




パチパチパチパチ…




儚くも美しい線香花火はまだ子どもだった私には少し物足りなかった。

ポトンと落ちるとすぐに次の線香花火に移った。


「晴香、風情が無いなぁ…」

「なあに、“ふぜい”って?」

「何でも無い」


玄希くんの言うとおり、ガキの私には風情はなかった。

勢いがあって華やかな“すすき”の方が好きだった。



5、6本やったところで私は飽きてしまい、玄希くんの手元でパチパチ鳴る可愛らしい線香花火の光を見つめていた。


「晴香、ありがとう」

「何が?」

「今日、一緒に花火やってくれて」

「別に。友達だもん、当たり前じゃん」


面と向かって言われるとなんだか照れくさかった。

ありがとうだなんて普段口にしない言葉ほど心に深く植え付けられるものは無い。

植え付けられた種がいつか立派な木になったら、私はその時に言の葉を落とそうと思った。


「そう言えば言い忘れてたんだけど…」


玄希くんは線香花火の光が消えるのを見届けてから私の方に向き直って言った。


「僕には、どんな光よりも晴香が1番輝いて見えるよ」


今思えば、キザなヤツ。

大人の言葉をいつの間にか彼は体得していた。

きっと分厚い本の中にそういうフレーズがあったのだろう。

ぽかんとしている私をよそに彼は続けた。


「晴香がどこに行っても、僕は晴香を見つけるね。晴香がブラックホールに飲み込まれたら、僕が絶対に助ける。
…だから…―――――笑ってて、ずっと」

「分かった。…約束」


私の左の小指と玄希くんの右の小指を絡めた。

私達はまた、大切な約束を交わした。


「晴香、玄希くん!ちょっとこっち向いて!」


母が私と玄希くんにカメラを向けた。













―――――パシャ













母が残してくれた、2人を繋ぐ写真だった。
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