ヘレナにはなれない
ということは、デメトリアスの台詞を通じて彼がぶつけているものというのは、きっとその好きな人へと想いなのだ。きっと、そうに違いない。だってあんなに上手いのだもの。
そしてもしかしたら、ずっと、私にその人の姿を重ねていたのかもしれない。田嶋君は私ではなくて、その人を、口説いていたのではないだろうか。
(あれ……それはなんかちょっと、嫌だな……)
そう、理解してしまうと同時、反射のように覚えた感情を自覚して、私は驚いた。嫌だ、などと思うのは、一体どうしてだろう?
胸に手を当てる。そこには確かに、もやもやしたものを感じられた。
(もしかして私は……あの台詞を私に、言っていて欲しかったの?)
俺には君しかいない、だなんて、情熱的な台詞を?
(……まさか、)
もしかして、だけれど。私は田嶋君のことを、好きになりかけていたのだろうか?だから、嫌だなんて思うの?
それは──なんて、報われない片想いなのだろう。まるで、デメトリアスにすがるヘレナのように。いいや、私はヘレナのようには、彼にすがれないのだけれど。臆病で、傷つくことが嫌いだから。嫌われてもいい、ぶたれても良いと追いかけることなんて、私には出来ない。
──嗚呼、嗚呼。なんということだろう。
今、気付いてしまった。私は、私は決して。ヘレナには、なれないのだと。
【ヘレナにはなれない】
(彼女のような激しい恋の花を咲かせることなく、私の蕾は、摘まれてしまった)