ヘレナにはなれない
腕を組んで考える私の隣に座りながら、田嶋君が「うーん」と考えるように声を出したのが聞こえた。それから、彼はゆっくり口を開く。
「まあなあ。俺も、振り向かないからって好きな子を殺そうなんて思ったりはしないな」
「……え、田嶋くん好きな人、いるの?」
予想外の返答を聞いた私は、驚いてそう聞き返した。なんだか意外だったのだ。飄々としている彼が、恋をしているだなんて。
すると田嶋くんは、こちらを見て薄く微笑んだ。
「……うん、してるよ。ヘレナほどではないけれど、報われなさそうなのをね」
「へええ」
私はびっくりして、思わず声を上げてしまった。
……田嶋くんには、好きな人が、いる。そうか、そうなんだ。へえええ。そう、なんだ。
驚いたし、ほんの少しショックではあったけれど、私はどおりで、と思っていた。彼は冷たくする演技が下手な代わりに、口説く台詞は得意だから。
そうなんだあ。恋してるからかあ。そう言われると、わかる気がするかもしれない、かも。