私の知らないあなた
 優斗は仕事に行かなくなった。

 部屋に閉じこもり寝ているような起きているような状態でただ時間だけが過ぎていった。
 
 食欲もなく、何もする気にならないという。

 何日間もシャワーを浴びないときもあった。


 そしてついに会社を辞めることになった。

 辞めざるを得なかった。

 優斗の両親は一人暮らしではなく自分たちと一緒に住むように説得したが優斗は嫌がった。

「雫と会えなくなるから嫌だ」

 優斗の話し方はまるで四、五歳の幼児のようで、そしてその内容に私は咽せるように泣いた。

「なるべくストレスを与えない環境で」

 担当医の言葉に従って優斗の両親は私の両親に頭を下げた。

 家族だけのときは激しく反対していた父も、打ちひしがれた優斗の両親の前では苦い顔をしてうなずくしかなかった。

「雫の人生が傷つきそうになったら、その時はなにがなんでも引き離す」

 私と母をリビングに残し父は一人自分の部屋に入っていった。

 その日はずっとそれから出てこなかった。

 母はただ哀しい目をして私を見つめていた。

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