私の知らないあなた
「優斗、なに言ってるの。意味あるに決まってるじゃない。だって」

 病気が治ったらまた仕事を始めて、そして私と結婚して幸せな家庭を作るんでしょ。

 そう言いたかったがその言葉は吞み込んだ。

 周囲のそういう期待も本人にはストレスになることもあると、担当医から言われていたのだ。

「僕の人生これからどうなるんだろう」

 一番苦しいのは優斗なのだ。

「ゆっくりいけばいいよ。今は人生の夏休みだと思って、焦らずゆっくり治療すればいいよ、ね、優斗」

 私は変わらなければいけない。

 そう思った。

 十数年、何十年もつき合うことになるかもしれないこの病気、社会人になってこれからという時に発症した優斗の将来はそれまで描いていたものとは全く別のものになるだろう。

 有名大学を卒業し大企業に就職した以前の優斗の未来は眩しいほど輝いていた。

 優斗の望むものは全て手に入るかのように思えた。

 それが今は普通の人の生活さえも送れなくなっている。

 薬の副作用なのか、優斗の下着はたまに汚れていることがあった。



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