私の知らないあなた
 私は泣きながら優斗の実家と担当医に電話をした。

 優斗はその夜救急車で運ばれそのまま入院することになった。



 再発だった。



 統合失調症は大きく四段階にその経過が分かれる。

 発症の前触れのようなものが現れる全兆期、つぎに陽性症状が現れる急性期、そして陰性症状の休息期、それから症状が治まっていく回復期。

 休息期や回復期に再び急性期に戻ってしまうのを再発と呼ぶ。

 つまり逆戻りだ。

 そんなに簡単に治る病気ではないと分かっていたつもりだったが、それでもやはり谷底に突き落とされたような気分になる。

「雫さんは明日もお仕事だから、病院には私たち夫婦で連れて行きますから心配しないで」

 私は一人救急車の外に取り残される。

 車の扉が閉まる瞬間、優斗と目が合った。

 救急隊員に抵抗して暴れた優斗は担架に縛りつけられていた。

 充血した目が、「助けて雫!行きたくない」と言っているようだった。
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