私の知らないあなた
 一人娘の私を言葉のごとく目に入れても痛くないほど可愛がる父も優斗を認めざるを得なかった。

「優斗くんだったら雫をやってもいい」

 満開の桜が散り始めたある日、優斗を招いて行われた夕食でほろ酔った父はそう言った。

 そのとき優斗はすでに大手一流企業に内定が決まっていた。

 それから日がそう経たないうちに、私の両親と優斗の両親そろっての食事会が行われた。

 正式に婚約を取り交わしたわけではないが、お互いの両親公認の付き合いは、はっきりと結婚に向かっていた。 

 私と優斗の将来は私たちの足元からまっすぐに伸び、その道は祝福と希望で輝いていた。

 私も優斗も誰もがその道の先にあるものが幸福だと信じて疑わなかった。
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