私の知らないあなた
 それが始まったのは優斗と付き合い始めて二年が過ぎたころだった。

 優斗は予定どおり内定が決まっていた会社に入社し、私はとりあえず家から通いやすく残業がないという理由だけで歯科受付の仕事についた。

 
 その日私はスマホを家に忘れて出かけてしまった。

 仕事が終わってから優斗と食事をする予定だったが、時間と待ち合わせ場所はすでに決めてあったので職場から優斗に連絡するようなことはしなかった。

 優斗は遅刻などしない。

 その日も優斗はすでに待ち合わせの場所で私を待っていた。

 私はと言えば、いつも十分くらい遅れる。

 そのことで優斗から咎められたことは一度もなかった。

「まあ、いいよ」私の頭を撫でながらそう優しく言ってくれた。



 でもその日の優斗は違った。
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