プレシャス~社長と偽りの蜜月~
「お色直しを少し早めようか?」

雅人が形の良い唇を耳許に寄せて呟く。
私の憂いのある表情で何かを感じたようだ。

係の人を呼び寄せて、早めに退場した。


「まだ式はすべきではなかったかな?・・・療養中の朱音に負担を掛けたね」

雅人は申し訳なさそうに囁いた。

医師の見解では私の記憶がいつ戻るかは定かではない。
私の事故で延期になった結婚式。

父が急死し、49日は過ぎたと言え、喪中の身。親族の中には式はまだすべきではないと言う者も居た。

雅人には私生活に仕事の上でも多大な迷惑を掛けている。


彼にはこれ以上を迷惑掛けたくないキモチから、挙式披露宴を強行した。


「自分を責めないで。私だって雅人と早く結婚したかったから」

「朱音がそう言ってくれると俺も安心する」

雅人は穏やかな微笑で返した。

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