躰全部が震えるキス

ある日、いつものように二人で話しながら非常階段を下りていた時のこと。

うっかりバランスを崩し、足を踏み外してしまった私。

そんな私を、タカノリが即座に支えた。

……のだけれど、一瞬遅かった。

そのまま、ごろごろ転がってしまい、気付けば私が下、タカノリが上。

そんな、押し倒されているような状態に。

「ねえ、キス、していい?」

人気のない、階段の踊り場。

「プラトニックって約束じゃん」

「軽いキスだけ。ディープなやつはしない。約束する」

「で、でも……」

いつもと全然違う、男の顔になったタカノリ。

予想もしない展開に、心臓がドクンと音を立てる。

これまでは、近くにいれるだけでいい、そう思っていた。

だけど、今日は違う。

タカノリに触れたい。

私の心が、彼を欲しがっていた。



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