恋の人、愛の人。


「私は、君に会う事は止めないよ?日曜だって迎えに来るから。
稜との関係を抜きにしたって、私は君が入社してからずっと思っていたのだから。ただ…。
稜の事、私が稜と親友だったという事を話してしまったから、君の思い方もまた違って来るのかな」

部長はそう言って帰って行った。

知る迄の3年と半年…。この年月にやはり救われた気がした。
亡くなって直ぐ知らされていたら、私は多分…半狂乱になっていた。今こうして、今の状況で居られたかどうか…。
終わりにしようと言った理由を問い質さなかったのも、…どんなに聞いたところで本当の事は教えてくれなかっただろうけど…。
稜が言わなかった事で私は生きている。知って、一緒に死にたいなんて言っていたら、…きっと叱られてたな…。
…稜。本当は話したかった気持ちはあったんだよね?
会えなくなるのに、…それを知ったら、会い方というか、一緒に居る様子だって違ってた…。
稜との、いい時だけの記憶を残そうと…。

私…普通に別れて、忘れようと努力してたよ?
それで良かったの?それが稜の望みだったのよね?
やっぱり、知ってしまったら年月が経っていても辛いよ。狼狽えようと、泣き叫ぼうと、…どうすることもできないなんて。
やっぱり…、どうして気がつかなかったんだろうって思ってしまう。なんて鈍感…。
はぁ…納得出来たよ。携帯の番号が違う人になってたのも。部屋に知らない人が住んでいた事も。それは…稜が居なくなったから。
やっと、もう会うことはないって意味が解ったよ?
もう…本当に会えないじゃない…馬鹿…稜の馬鹿……一人で苦しんで…。
私、いいの?笑って生きてるよ?…。

稜、知らなかったよ、弟さんが居たなんて。
その弟君はね、私の部屋に強引に泊まりに来たんだよ?
…本当に…子供っぽい事ばっかりするの。びっくりする事ばっかり。
部長が稜と親友だったなんて…。
稜は部長の気持ちも知ってたんだよね。だから、私には、私の会社の晴海貴仁という人が親友だなんて、一言も言わなかったんだ。…それは、部長もだけどね。

衝動的に電話を架けていた。

RRRR、…。

「……はい」

機嫌の悪そうな声だ。長くしつこくコールしてしまった。

「あの、こんな夜分にすみません」

「ぁあ゙…誰だよ、本当…あ、あんた、この番号の、だよな」

「はい。ご迷惑だとは思ったのですが、この番号の人と…連絡が取れたので、それで、お礼というか、ご報告というか。
あの時は有り難うございましたという電話をしたくなってしまって、ごめんなさい」

「そうか、良かったな。へえ、良かったじゃん。凄いな」

「はい。だから、もうこんな電話でご迷惑をおかけする事もないと思います」

元々二度とかけることはなかった。

「そっか。あ、因みにそいつはなんて名前なんだ?」

あ。……。

「…稜って言います」

「え、マジか!?うっそ。俺もリョウなんだぜ。すげー偶然」

「本当に?」

「本当本当、マジだって。こんな事、嘘言ったって何の得にもならないし」

「…では、こっちの稜の分も頑張ってくださいね」

「あ?何だか変だけど、おお、頑張るよ」

「では、…さようなら」

「ああ、バイバイ」

はぁ、…全然知らない人なのに…。
稜の番号だったのに…稜にさよなら出来たような気がした。ううん、直ぐにはそんな割りきれない。
もう、この番号に架ける事は、本当にもうないのね、稜だって言って、かかってくることも…。稜…。稜…ごめん、なさい。何も気づかなくて…私。
ごめんなさい。
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