恋の人、愛の人。
「もう本当に…会いたくても会えない人になってた…。それを、今日、私の部長が、稜の親友だと言って…。稜に頼まれていたからって、やっと今話すんだって、教えてくれました」
亡くなってから直ぐではなく、一定の期間を置いてからという約束か…。
梨薫ちゃんは動揺している。言葉の綾だろうが…私の部長が、と言った。…私の部長。
それって会社の、の部分が単に抜けたんだよな?……。はぁ、俺は…何に拘ってる。つまらないことに…今はそんなところ、気にすることではない。
「稜はスキルス胃がんていうがんだったって。初期には凄く症状が解らないから。だから…。
解った時には腹膜にも転移してたって…。
それって、本当に、解った時には手の施しようが無いモノなんですか?
こんなに日々医療も進歩していても、…間に合わないんですかね…。どうして?…ねえ、陽佑さん、どうして治療ができないの?今ならできるの?」
スキルスか…。知ってる。初期に解っていればな…。何とかなったかも知れないが。
自覚症状も、ちょっと疲れてるかなとか、風邪かな、くらいに判断しがちだとも言うな…。だからどうしても病院に行くのが遅れる。仕事をしてる人間は特にな。
解った時にはあっという間だっただろう。梨薫ちゃんを直ぐ頭に浮かべただろう。相当悔しかったに違いない…。だけど、何に当たればいいんだってね…。どうしようもできない。
「私の部屋に泊まっていた黒埼君は、弟だって…」
そんな偶然…いや、きっと偶然なんかではないだろう。会社が同じなんて偶然もそうはない。そうか、初めから…弟は弟で、苦しい恋をずっとしていたという事か…。
…はぁ。
「…甘えてもいいぞ?」
「え」
「泣きたかったら泣けよ。我慢するときじゃない。中途半端にメソメソしてたって、また同じように思い出してメソメソ泣きたくなるだけだ。
全部一気に吐き出してしまえばいい…。涙が涸れるまで泣いた、とか、歌にもあるだろ。それでも完全に楽になれる訳じゃない。でも、100パーの辛さからは少しはマシになる。
忘れようと思わなくていいんだ。忘れるんじゃなくて、違う場所に大切にしまうんだよ。そうなれるように、…だから、気が済むまで泣けばいいんだ」
…側に居るよ。気のおけない誰かが居ると泣けるもんだ。ここに来たこと、俺はそんな存在だと思ってるよ。
ベッドに腰を下ろしていた陽佑さんは私の身体を起こして抱いた。
「こうしていれば、ぐしゃぐしゃに泣いても見えないからな…いいぞ?」
…。
「…いいぞって言われたら、…涙が引っ込んじゃった…」
「フ…そうか。こういう時にそんな言葉は言わなくていいんだよ…泣く事は恥ずかしい事じゃない…俺のことは気にせず、自分の中にどっぷり入り込んだらいいさ…」
頭を撫でられた。背中もゆっくりトントンされた。
トクン、トクンと、陽佑さんの力強い鼓動が伝わって来る。
「………稜…」
そう呟いたら、涙が湧き出して溢れた。
「…ほら…嘘つきだな」
「…う、ん。陽佑さん、ごめんなさい…。稜…」
陽佑さんのシャツを掴み、稜の名前を呼び、声をあげて泣いた。
亡くなってから直ぐではなく、一定の期間を置いてからという約束か…。
梨薫ちゃんは動揺している。言葉の綾だろうが…私の部長が、と言った。…私の部長。
それって会社の、の部分が単に抜けたんだよな?……。はぁ、俺は…何に拘ってる。つまらないことに…今はそんなところ、気にすることではない。
「稜はスキルス胃がんていうがんだったって。初期には凄く症状が解らないから。だから…。
解った時には腹膜にも転移してたって…。
それって、本当に、解った時には手の施しようが無いモノなんですか?
こんなに日々医療も進歩していても、…間に合わないんですかね…。どうして?…ねえ、陽佑さん、どうして治療ができないの?今ならできるの?」
スキルスか…。知ってる。初期に解っていればな…。何とかなったかも知れないが。
自覚症状も、ちょっと疲れてるかなとか、風邪かな、くらいに判断しがちだとも言うな…。だからどうしても病院に行くのが遅れる。仕事をしてる人間は特にな。
解った時にはあっという間だっただろう。梨薫ちゃんを直ぐ頭に浮かべただろう。相当悔しかったに違いない…。だけど、何に当たればいいんだってね…。どうしようもできない。
「私の部屋に泊まっていた黒埼君は、弟だって…」
そんな偶然…いや、きっと偶然なんかではないだろう。会社が同じなんて偶然もそうはない。そうか、初めから…弟は弟で、苦しい恋をずっとしていたという事か…。
…はぁ。
「…甘えてもいいぞ?」
「え」
「泣きたかったら泣けよ。我慢するときじゃない。中途半端にメソメソしてたって、また同じように思い出してメソメソ泣きたくなるだけだ。
全部一気に吐き出してしまえばいい…。涙が涸れるまで泣いた、とか、歌にもあるだろ。それでも完全に楽になれる訳じゃない。でも、100パーの辛さからは少しはマシになる。
忘れようと思わなくていいんだ。忘れるんじゃなくて、違う場所に大切にしまうんだよ。そうなれるように、…だから、気が済むまで泣けばいいんだ」
…側に居るよ。気のおけない誰かが居ると泣けるもんだ。ここに来たこと、俺はそんな存在だと思ってるよ。
ベッドに腰を下ろしていた陽佑さんは私の身体を起こして抱いた。
「こうしていれば、ぐしゃぐしゃに泣いても見えないからな…いいぞ?」
…。
「…いいぞって言われたら、…涙が引っ込んじゃった…」
「フ…そうか。こういう時にそんな言葉は言わなくていいんだよ…泣く事は恥ずかしい事じゃない…俺のことは気にせず、自分の中にどっぷり入り込んだらいいさ…」
頭を撫でられた。背中もゆっくりトントンされた。
トクン、トクンと、陽佑さんの力強い鼓動が伝わって来る。
「………稜…」
そう呟いたら、涙が湧き出して溢れた。
「…ほら…嘘つきだな」
「…う、ん。陽佑さん、ごめんなさい…。稜…」
陽佑さんのシャツを掴み、稜の名前を呼び、声をあげて泣いた。