恋の人、愛の人。
ある程度瞼を冷やして痛みも大分落ち着いて来たら、陽佑さんに裏から連れ出された。鍵をかけて手を引かれた。
「あの、陽佑さん?さっきからよく解らないんですけど」
こんな状態だから今日休めって言われたのは解るけど。…明日も休むとか決められて、桃子ちゃんにメールしちゃうし。挙げ句連れ出されて。どこに行くというの。……あ、送ってくれるのかな。
「今から俺のマンションに行く」
「……え゙!?陽佑さんのマンションに?…どうして?……え?うちにじゃないの?」
「ん?フ、まあそう早まるな…、別に梨薫ちゃんの部屋に行くのはそれはそれでいいんだけど。誤解するにもまだ早い。俺のマンションの方が近いから、先に寄るって事。シャワーして着替える時間、待っててくれ。先ずそれだけに行くんだ」
「あ、は、はい」
それは解ったけど、何故、私も一緒に?…。
見える景色も重い瞼のせいで見え辛いから、手を引かれて歩いている事は有り難かった。
「ここだ」
「わ、ここ知ってます…凄いマンションに住んでたんですね…」
「いいから、こっち」
重厚なソファーとテーブルがある…エントランスからエレベーターに乗った。
ここだけで超…高級なマンションて感じ…。
「そろそろ腹の虫が鳴かないか?」
「え?はい、まあ…はい」
気にはならなかった。
「先にちゃちゃっと作るから、食べてたら待ってる気にもならないだろ」
着いた…。部屋の前に来るとカードキーを通す。カシャ。…おー。
「…いちいち煩いぞ…さあ、入って」
「はい…」
なんとなく曖昧な理由で、入れと言われて入ったりして…。普通、戸惑うじゃない?
「ん?大丈夫だ。誰も居ない、こっちだ」
誰かが居ようがそこは私が関知する範囲ではない。もたもたしていたら手を引かれた。慌ててヒールを脱いだ。
「あ、待ってくださ…」
「ここに座ってろ。あ、トイレはあっちな」
「あ、はい。……キャ」
さりげない振る舞いや部屋の様子に圧倒されていると、ゆったりしたソファーに腰を掴まれ強制的に座らされた。周りをきょろきょろしていたら、もう腕まくりをしてキッチンに入っていた。
何も見えていない、無駄な物が何もない部屋…。
シンプルな珈琲カップとプレートを出した。ベーコンと卵を焼きだした。厚切りのパンをトーストしている。当たり前だけど無駄な動きがない。
香りが立っていたエスプレッソマシンから抽出された珈琲にミルクを合わせた。
「はい、これ食べてて」
…早い。レタスとスライスされたトマトの添えられたプレートにベーコンエッグが盛られ、焼きあがったトーストが置かれた。バターが添えられた。…流石、提供まであっという間。
「ん?あ、…はい…フォークと…カプチーノね。じゃあ、俺は簡単に風呂に行って来る」
そう言っている側から、シャツのボタンを外し、脱ぎながら歩いて行った。…早い。きっとこれを食べ終わるよりも先に出て来そうだ、そんな勢いだ。
……誰も居ないのかな。…頂きます。
「ふぅ」
あ、やっぱり思った通りだ。私的には、もう出て来ちゃったの、って感じだ。
腰にバスタオルを巻いていた。…ゴク…自称色白美肌の主は、綺麗な裸体を惜しみなくさらけ出していて、上半身のみで充分刺激的過ぎた…。
ゴクゴクと喉仏を上下させながら水を飲んでいる…。
「はぁぁ。ん?あー、俺も焼いちゃおうっと」
トーストをセットして、同じようにベーコンエッグを作り始めた。…あ、嫌だ、…見惚れていた。立ち上がった。
「…どいてください、早く」
「んー?何何」
慌てて我を取り戻しキッチンに行った。
「ベーコンの油が飛ぶと熱いですよ。代わります。陽佑さんはあっちでカプチーノでも入れててください」
パチパチとベーコンが弾け始めた。
「ほら、危ないです」
「あ、おぅっと、…サンキュ」
美肌が火傷しますからね。痛いし、痕が残ります。
「…焼けました、どうします?」
「あ、うん、トーストの上に乗せてくれるか」
横に立ってカプチーノを飲んでいた。
「は、い…乗せました」
「サンキュ。あとは…レタスをポンっと。トマトもポンと。出来た。ベーコンレタストースト。に、…ピザソース…と」
…。
「狡い…、美味しそう。私も半分ピザソースにします」
「フ。ハハ。そうか、人のモノは旨く見えるってやつか。じゃあ、…ほい」
ソースの瓶を渡された。