恋の人、愛の人。
食べ終わって片付けていたら、服をちゃんと着た陽佑さんが奥の部屋から出て来た。薄いカーディガンを着たカジュアルな装いだ。ちょっと小振りなバッグを持っていた。
出掛けるのかな?
「はい、次は梨薫ちゃんちね」
「はい?え?うち?は、い」
「そう。梨薫ちゃんもお直ししたいでしょ?」
「お直し?あの、陽佑さん、一体…」
帰ってそれで終わりでは?
「さあ、出た出た。あ、片付け有り難うな」
まだ何も具体的には答えてくれない。
「あ、はい、いいえ」
「エレベーター、こっちに乗って」
「え?はい」
あっちだ、こっちだと…。豪華なマンション…。
下に着いた、多分地下…、駐車場だ。
「はいはい、乗って」
「えー…」
「いいから、乗る」
電子音がして解錠させるとSUV車の助手席のドアが開けられ、躊躇していたら押し込めるように座らされ閉められた。
「シートベルトした?して。行くよ?」
緩い上り坂を出た…眩しい。あっという間に明るい日差しの中に出ていた。
「どっち?梨薫ちゃんち」
「えー、待ってください。解りません」
自分の部屋といえども急には…人の部屋から自分の部屋の方向なんて…見慣れない道に出たところでは解らない。冷静に考える時間だってないんだもの。
「じゃ、住所言って。近辺までは解るけど、大した距離じゃないんだけど、解るように言って」
教える住所をナビに入れていく。
直ぐに着いた。当たり前だけど。
「よし。車、停められる?」
「え?はい。そこの来客用、空いてるから大丈夫です」
「ん。じゃあ、待ってるから、楽な恰好で下りて来て。あと、一泊するつもりで、翌日の分の諸々の物、詰めて来て。忘れ物があっても大丈夫だから。鍵だけはちゃんとかけて来るように。はい、行った行った」
俺はここに居るから、ゆっくり準備していいよ、と言われた。
「えー、もう…、解りました、…でもどこに」
「行って行って」
送ってくれただけじゃないの?…何を催促されて、急かされて、バーを出て来たのか。とにかく、今日は休みにしてしまった事だし。明日もか。言われた通りにしてみようかな。
あまり待たせてもいけないから、急げる部分は急いだ。シャワーを素早く済ませ、化粧だけは、ちゃんとした。
鏡を見れば瞼も少しは落ち着いてきたようだった。案外、回復が早いのかな…?
これならちょっと遅刻して行けてたんじゃないかな。…ん?酷かったのかな…?。