恋の人、愛の人。


「それは…駄目だと思わないか?」

あ、…そうか。でも、それは誤解だ。

「部長のお仕事で、お手伝い出来る事はありませんか?何か作らないといけない…私の目に触れても構わない物で、書類の作成なら手伝えると思います」

…。

それが私に出来る仕事だ。

「…そういう事か」

「はい」

「では、手伝って貰おうか。私の部屋に行くが、…いいかな」

「はい」

「買い物をして帰ろう」

「は、い」

買い、も、の?


ある程度は走る事になった。
高速を下りて部長の部屋に行く途中、スーパーに立ち寄った。

「先にまず、昼ご飯を頼む」

「はい。そういう事で買い物だったのですね。私はてっきり仕事に必要な足りない物を買うものだとばかり思っていました」

「資料はパソコンに入っているし、プリントする必要も無い。今必要なのは、食材と梨薫だ」

あ…ドキッ。…部長は要所要所で名前を呼び捨てにする。もの凄いピンポイントで撃ち抜いてくるんだから。

「もうプライベートでは梨薫と呼ぶ。呼びたくて呼んでいる」

あ、呼ばれて毎回ドキッとしてる事、知ってるのかな…。

「稜以外には呼ばれたくない?」

「そんな事はありません」

「じゃあ、さんは付けない。いいね?」

「はい」

もう既に、ちょいちょいずっと呼び捨てですから。

あまり沢山買っても無駄になるという事で本当に必要最低限の食材を買った。
部長は和食が食べたいらしい。時間が掛かってもいいからと言われた。


帰ってとにかくご飯を炊く事から始めた。
希望のメニューは煮魚、筑前煮、だし巻き玉子、それからお味噌汁。定番中の定番、ザ、和食だ。
調味料も鍋の類いも揃っていた。
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