恋の人、愛の人。
・特別な人


「…こんばんは」

「おぅ、早いな。仕事終わりに来たのか?まだ誰も居ない。一番乗りだな」

グラスを曇りなく拭いていた。

「そうですね。陽佑さんこれ、お返ししておきます」

「ん?」

カチッとカウンターに鍵を置いた。

「…あぁ、鍵か」

「はい。受け取っていながら、今更ですが、…甘えてはいけないと深く自覚しました」

「あぁ、今更だろ」

はぁ…そうですよね…。

「だから、持っているだけというのも、駄目だと思って。もし…また」

「本気で場所が必要になった時は、…次は俺の部屋だ。ここではなく、俺のところに来ればいい。場所だって解っただろ?」

…。あ…、いつもなら、ここで、はい、なんて返事をして、特に考えもせず済ませていたと思う。もう、そんな返事はしては駄目だ。
陽佑さんにだって、陽佑さんの…都合がある。

「別に返事は必要ないさ。成り行きがそうさせたら、だから」

「はい。うん?…はい」

返事はしないという意味で返事をしたんだけど、伝わったかな…。

「今日はこれだけか?すぐ帰るのか?」

「はい」

「そうか」

……陽佑さんは…。ううん、…よく解らない。 いつもこんな私に合わせてくれていたのだろうし。

「売上協力はまた別の日に来ます。
今日は、遊んだような日だったので、これでお酒まで飲んでしまったら、月曜から何をしてるんだってなってしまいます。
先週は有り難うございました。とても…お蔭様で前向きになれました。
…私、昨日はお墓参りに行って来たんです。では、帰ります、おやすみなさい」

…。

「大丈夫なのか…」

また泣きまくったんじゃないのか…。

「え?あ、はい。もう…大丈夫です」

「そうか。そういうなら、大丈夫って事にしとくか…」

「まあ…本音は色々です。まだ色々あるだろうけど、大丈夫は大丈夫になりましたから」

これだって狡い言い方だ…。色々あったら甘えるかも知れないって言ってるようなものだ。
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